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古代の日本人を想い、カヌーで小笠原諸島を目指す

自身が代表を務める「オーシャンヴァア」では、クラブのメンバーたちと練習を行いレースに出場する一方、ボヤージングと呼ぶ航海も積極的に行っている。
葉山を起点に伊豆半島や伊豆諸島へ向かい、これまで日本近海の外洋で航行した総距離は2300kmに及ぶ。そしていつかたどりつきたい場所が小笠原だ。葉山からの直線距離は1100km。東京と博多の距離に匹敵する。
「葉山から一気に渡るのではなく島をつないでいきたいと考えているんですが、きっと古代の人たちもエンジンのない船で航行していたはずなんです。ならば自分たちでもできるだろう。そういう思いから取り組みを始めました。
東京・芝浦からの定期船を使えば24時間で行けますが、不便だけれども人にはそれだけの力があることを実証し、同様の方法で海を渡っていた先人について伝えることに意義があると思っています」。
そして先日、これまで新島と三宅島まで到達していた状況を更新。八丈島を起点に三宅島と新島を経由し、南伊豆までをつないだ。八丈島から三宅島へ渡る際には、両島の間を流れる世界2大海流のひとつで流れの速い黒潮の厳しさをパドル越しに感じつつ、13時間も漕ぎ続けた。
次の目標は、いよいよ小笠原諸島。八丈島から3日間夜通し漕ぎ、約800km先にある最終目的地を目指す。
「6人乗りでは伴走艇で順番に休みながら航行するため10人のクルーが必要です。会社員もいるなか各々の予定と天候をはじめ自然の状況を合わせる必要のあることが、簡単に出発できない要因になっています。
チャレンジや冒険ではなく、自然に寄り添いながら漕いで渡ることが僕らの目的。安全な状況が必須です」。
穏やかな海で漕げるから、目に映る日本の自然に素直に圧倒される。
「海から見る日本は本当に美しいんです。どんどんと近づいてくる青々とした東伊豆の山や、新島近くで見えてくる真っ白なビーチの羽伏浦海岸。美しき光景の数々を昔の人たちはどのような気持ちで見つめていたのか。そんな思いにもかられます」。
心を動かされる一方、冷ややかな現実を突きつけられもする。
「海ではゴミの多さを実感します。陸は人が快適に生きられるように整備されていますが海は嘘をつきません。その光景はネガティブな意味で圧倒的。もっと多くの人に海に出てほしいと思う理由でもあります」。
そして海そのものを楽しみながら多くの気付きを与えてくれるアウトリガーカヌーは、ストレスを抱えやすい都市生活者にも手を差し伸べる。行き詰まりを感じたとき、本来の自分へとリセットさせてくれるのだ。
「ストレスは海に出れば解消されます。おすすめの特効薬は、もちろんアウトリガーカヌーです」。
そう言って、ケニーさんは爽やかに笑った。
 
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鈴木さよ子、三浦安間(人物)=写真 小山内 隆=編集・文


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