“タホエ”の実践こそが6人乗りで最も大切なこと
その世界観は6人乗りのアウトリガーカヌーに顕著だ。まずクルーには各々の役割があり、それらをまっとうすることが求められる。
1番シートは6番シートに座るステアと呼ばれる舵取り役の指示に従い、海の状況を読みストロークやピッチを決める。2番シートは1番シートの仲間を背後から励ましアドバイスを送って支え、3番シートはストロークの回数をカウントするなどカヌーの状況を把握。
4番シートはパワーシートと呼ばれ、周りの状況に惑わされることなく最大の推進力を提供する。5番シートは力強いパドルとステアのサポートを求められ、6番シートは舵取り役として、流れ、波、風を読んでカヌーをコントロールする。といった具合だ。
そのうえで6人はパドルを合わせ、推進力を生むことを目指す。必要なのはクルー全員が家族のような絆を築くこと。家族に向けるような思いやりがないと目的地には絶対にたどりつけないと、ケニーさんは言った。
「そもそもアウトリガーカヌーは1人で持ち上げられませんし、6人が予定を合わせないと沖にも出られません。SUPのように『時間ができたからサクッと漕いでこようかな』は無理なんです。
面倒くさい面はありますが、それゆえの意味はあるし、そのひとつが“相手を思う”こと。たとえば積み込んだ食料を、自分の空腹を満たすために取り合うのか、分け合うのか。そのようなことを普段から意識づけてくれるんです」。
タヒチに遠征すると“分け合う”意識の大切さに気付かされる。彼らはごく自然にカヌーピープルとしての生き方をし、当たり前のようにお互いへの思いやりを抱く。毎日海と触れ合い沖に出る生活が風土であるから、海上でも考えるより先に身体が動く。ケニーさんによれば、「タホエが実践できている」のだと言う。
タホエとは「ひとつになる」を意味するタヒチ語。6人がひとつになり、自然とひとつになる。海の民が無意識に実践するアティテュードだ。タホエがないとハワイのモロカイ島とオアフ島の海峡を横断するレース、モロカイ・ホエなどは完走できない。
「6人乗りで約70kmを完走するためにまず必要なのは、お互いを思い漕ぐこと。前の人が楽になるように漕ごうといった気持ちで誰もが漕げれば渡れます。
面白いのは、『今進みづらいけど、誰か疲れているのかな』など怪訝に感じた瞬間に失速すること。やはり6人乗りの素晴らしさは6人で力を合わせることに尽きます」。
よくタヒチのカヌーピープルに「海と踊りなさい」とアドバイスされるという。それはアウトリガーカヌーの極意。穏やかな音楽では優雅に踊り、激しい音楽では躍動しながら踊るように、海の上でも海のリズムに合わせることが大切となる。
だから世界一速くパドルを漕げる人が思い切り漕ぐよりも、世界一パドルの遅い人がウネリに乗ったほうが速く進める。そうしてクルーみんなで海と調和できたときに、「アウトリガーカヌーにアートを感じる」のだと、ケニーさんは言う。
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