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2021.09.05

ライフ

洋上のアスリート・ケニー金子さんに聞いた、大海原を行くアウトリガーカヌーの魅力

湘南・葉山でアウトリガーカヌークラブ「オーシャンヴァア」を営むオーシャンアスリートのケニー金子さん。
ケニーさんにアウトリガーカヌーのどこに魅力を感じるのか伺ったところ「誰もが平等で家族的なところです」との答えが。その真意を探ってみた。
 

平等性と助け合いを称えるアウトリガーカヌー

オーシャンアスリート・ケニー金子さんに聞いた、仲間と大海原を行く「アウトリガーカヌー」の魅力
波乗り遊びの起源は諸説あるなか、現代サーフィンにつながるルーツは太古のポリネシアにあるというのが通説だ。歴史を紐解けば、その頃のタヒチやハワイに住んでいた人たちは、“海の民”と呼ばれるほどに優れた航海技術を持っていたという。
漁をはじめとして日常的に沖へ出て、その際に使っていたのが木製のアウトリガーカヌー。本体の片方もしくは両サイドに安定性向上のための浮き材を備えたカヌーのことで、パドルと呼ばれるオールを使って漕ぎながら大海原を行き来し、帰港する際には風に乗り波に乗り陸を目指した。
このアウトリガーカヌーをベースに、やがてハワイでは波乗りに特化したものが木材で作られるようになっていく。それが現在のサーフボードのルーツである。
古代ハワイのサーフボードは素材が木であり重さは40〜50kgほどあった。思うようには動かせず、ライディングは波に押されて真っすぐ進むのが基本的なスタイル。
それが今ではオーソドックスなショートボードで3kgほど。波に乗せてもらうものから波を自在に乗るものへ。さらに大衆に受け入れられるレジャーとなり、スポーツとして進化しオリンピック競技ともなった。
一方のアウトリガーカヌーは、素材が変わりスポーツとしての進化も見られるが、根本的な世界観に大きな変化は見られない。今も昔も“生き方”であることが魅力なのだと、日本を代表するオーシャンアスリートのケニー金子さんは教えてくれる。
「アウトリガーカヌーのすごくいいところはプロスポーツではなく、コミュニティであるところです。1人乗りや6人乗りでのレースはありますが、勝つためにパドルの速い人を集め参加してもあまり意義がないと僕は思っています。
本場のハワイには多くのアウトリガーカヌークラブがありますが、いずれも子供から高齢のおじいさんおばあさんまでが所属してクラブを支えています。その様子を見て素晴らしいと感じるのは、クラブ員たちは普段の生活の場でアウトリガーカヌーに触れ合い、ほかのメンバーたちと家族のような関係を築きながら目標を共有し、日々の練習と向き合いレースに出ていること。
勝利至上主義ではないからエゴがなく、パドルが速い人もレースに出場しない人も、みんなが平等で支え合っていることなんです」。
湘南の葉山を拠点とするケニーさんは、アウトリガーカヌークラブ「オーシャンヴァア」の代表として活動する一方、SUPレーサーとして競技に参加している。
また若い頃はサッカーでプロ選手を目指し、小学3年から高校2年まで家族と滞在したカリフォルニアでは、アンダー14からアメリカ代表に選ばれ続けた。高校3年で帰国してからは東京ヴェルディのユースに所属。Jリーグで活躍するプロを間近に腕を磨いた。
結果としてプロサッカー選手になる目標は怪我で断念。しかし勝利を希求する世界に長く身を投じてきた経験があるから、「競技はエゴの世界」であり、強い選手を集めてチームを組むことは「簡単」なのだと言い切り、対極の世界に魅せられた。
「スペインのレアル・マドリードやイギリスのマンチェスター・ユナイテッドがなぜ強いのか。資本力で世界中から選りすぐりの選手を集めているからです。いわばプロサッカーの世界は資本主義の象徴なのですが、対してアウトリガーカヌーはまったくの別物。
太古の時代から継承される本来の意義は家族的で、格差が広がり、孤立化が進んでいる今こそ大切にしていきたいと感じています」。
誰もが平等で支え合う世界観に、ケニーさんは魅了されたのだ。


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