「Camp Gear Note」とは……前人未到に挑むハードな探検において、ストーブは性能の良し悪しが大きく問われるギアの代表格。
気圧が低い高所や氷点下数十度を記録する寒冷地において、安定した火が使える火器は調理だけでなく、雪から飲料水を作るためにも必要不可欠。遠征の成否をも左右する重要なギアなのだ。
今回は、世界中のタフな探検家たちに100年以上愛され続けているスウェーデン生まれの燃焼器具ブランド、「プリムス」にスポットライトを当てる。
世界の一流探検家がこぞって愛用
プリムス製品の歴史をたどると、話は19世紀にまで遡る。
18世紀の産業革命、19世紀に起きた第二次産業革命は、薪や石炭から灯油や石油へと燃料の進化に伴った革命である。
その波が家庭にまで届いたのは19世紀末のこと。それまで家庭で使われていた薪や石炭に代わり、ガソリンやパラフィンなど液体燃料を使ったランプやバーナーが登場し始めるようになった。
この時代に、燃焼効率が良く、煤の発生も少ない技術を採用した画期的なバーナーを生み出したのが、「ストーブの父」とも呼ばれるスウェーデン人のフラン・ヴィルヘルム・リンドクヴィスト。
1892年に世に送り出されたこのストーブは、ラテン語で「最初の」を意味する「プリムス」と名付けられた。
1966年にPRIMUS-SIEVERT社が設立されるまで、このストーブはBAHCO社によって販売され、世界中で快調に売れ続けた。他社が販売し始めた同型のパラフィンストーブも「プリムスストーブ」と呼ばれていたほど、世間に「プリムス」の名は浸透していたそうだ。
プリムス製品はその性能の良さはもちろんだが、世界中で一流の探検家がこぞって愛用していた事実が人気に拍車をかけた理由だ。なかでも、ふたつの世界的な探検で使われたことはプリムスの性能が実証された好例だろう。
まず、ひとつめは1911年にノルウェーの極地探検家ロアード・アムンゼンが人類史上初めて南極点に到達した遠征で使用したこと。数あるランプの中からプリムスを選んだアムンゼンは、のちに同社の広告にも登場し、その素晴らしさを称賛している。
1953年には、イギリスのヒラリー卿とテンジンによる世界最高峰エベレストへの初登頂にも携行された。氷点下の気温と強風、そして酸素の希薄な高地や極地という極限に近い状況下でも、絶対的に信頼できる製品であると太鼓判が押されたのだ。
彼らの探検がどれほどのプロモーションになったかは、想像に難くない。
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