数々のブランドのデザインやディレクションを手掛けるアーカイブ&スタイル 代表・坂田真彦さん。
彼が現在所有している腕時計のなかでも特別な存在のひとつとしてあげたのが、20年ほど前に購入したK18PGケースの「レベルソ・デイト」だ。
「20代の頃から、ロレックスなど、SS製ヴィンテージウォッチを何本か所有していたんですが、30代を迎えるにあたり、ドレッシーな時計を一本手にしたいという思いがありました」という動機で探したところ、ぴったり合致した一本に出合った。
「このモデルが誕生したといわれる1930年代から基本的に変わらないレクタンギュラーのデザインに、当時、日本で注目されはじめたK18PGのケースの組み合わせが絶妙。クラシカル一辺倒ではなく、モダンさを醸していた点も、トキメキのポイントでしたね」。
坂田真彦さんに時計の新たな楽しみ方を教えてくれたのも、この一本だ。
「レザーベルトの付け替えがこんなに楽しいとは!それまではSSブレスで交換不要だったので、へたったレザーベルトを新品に交換する楽しさを知らなかったんです。着せ替え感覚で楽しみました。これによって、TPOに合わせて付け替える、その幅も広がりました。
今愛用しているのは、パイソン。ゴールドウォッチとパイソンというクドイくらいの組み合わせが50代の今、似合っている気がします(笑)」。
普段から時計以外のアクセサリーを着けないという坂田さんの流儀に鑑みても、腕元のクラシカルな装飾として打ってつけでもあった。
「今の時代、合理性だけを考えたら、時刻はスマホでも見られるわけで、その点では腕時計は不要かもしれません。服も持ち物も最低限という、ミニマリストが出現するのも理解できます。
けれど、僕はその反対。クリエイティブな職種である以上、一流のモノや面白いモノを所有する意味を知っておきたいし、魅力を発信していきたいんです。自分で体験しないと説得力も生まれませんから」。
最後にこの時計を所有して良かった「深イイ話」。
「イギリスで仕事していたときに、職場の30代の女性が、レベルソを着用していたので、『同じ時計ですね』と話しかけました。すると、名作レベルソとは知らずに、お爺さまから受け継いだ一本とのこと。僕がいかにその時計が素敵かを説明しました(笑)。
イギリスでも代々受け継がれるほどの時計なんだと感動しつつ、我が娘にもいつか、という思いも生まれました。女性が着けても素敵なんですよね。もちろん、娘がその価値を理解できるようになってからですが(笑)」。
※本文中における素材の略称:SS=ステンレススチール、K18=18金、PG=ピンクゴールド
川西章紀=写真 髙村将司=文