当記事は「FLUX」の提供記事です。元記事はこちら。古き佳きローカルの住宅地であるオアフ島、カイムキ。新旧入り混じる独特なエリアだが最近は大規模な開発が進む。カイムキ独自の魅力を守り通したいと地元の店主たちから生まれたムーヴメントがKeep It Kaimukiだ。
カイムキは、時間が止まっているかのように思えるときがある。からっとした日差しに恵まれたこの地区は、パロロ渓谷の麓からワイキキのちょうど東側に位置するダイヤモンドヘッドまで続いている。
カハラに建っているような、凝った造りの門構えの豪邸やカカアコ風の高層ビルは見当たらない。あるのは、かつてハワイのプランテーションの集落に見られた魅力的な住居や建築物で、20世紀初頭の光景だ。
カイムキの躍動感は、ワイアラエ通りから始まる。カパフル通りを始点とし、カハラモールのそばが終点だ。カイムキを横断するように走るワイアラエ通りには、地元商店が軒を連ねる。ごたごた、せかせかとした雰囲気はなく、ゆったりとした心地良い雰囲気が漂っている。
ワイアラエ通りと12番通りの交差点にある、活気溢れるコーヒーショップ「コーヒートーク」のオーナー、リズ・シュワルツさんは、「このあたりはずっと素敵で、私も昔から大好きだし、いつだって自分の家みたいに思ってきました」と話す。「ここは実際に人が暮らして働くリアルがある地域ですよ」。
カイムキの住民であり、ワイアラエ通りを熟知しているシュワルツさんは、最近このあたりに新たな活力が吹き込まれていることに注目している。「カイムキに新しいエネルギーが送り込まれているようですね。とってもわくわくします」と語る。
「一人ひとりが自分のやっていることに夢中になっていて、モールの中に収まりたくないと思っているみたい。自分たちの居場所をとても誇らしく思っていますよ」。
過去数十年の間に、「JJビストロ&フレンチ・ペストリー」のように閉店したところもあれば、「カイムキスプレット」のように新規オープンしたところもあり、「クラック・シード・ストア」のように業績が堅調な店もある。
「パブリックペット」、「カイムキスプレット」、「ブリュード・クラフト・パブ」、「ゴールデン・ハワイ・バーバーショップ」はいずれも2014年以降にワイアラエ通りに登場した店舗だ。
これらの専門店のインスタ映えは確実だが、カイムキっぽさもあり、誇り高く、地元色も色濃く出ている。
地元発のブランドや商品を扱うこれらの店がカイムキで商売を続けたいと思うのは、観光客や通りがかった人たちのためというより、オーナーがこの地域を、ひいてはハワイを愛しているからだ。
「カイムキは、今でも家族を大事にする地域ですよ」と、「ゴールデン・ハワイ・バーバーショップ」のオーナーであるグラント・フクダさんは語る。
ワイアラエ通りのそばにあるパロロで育った彼は、「タノウエズ」でサイミン(※訳注 ラーメンによく似た麺料理)を食べ、かつて存在した「クイーンズシアター」でサーフィン映画の新作を見て大人になった。
「金曜の夜に、家族3代でまったりとディナーに出かける様子を見られるのがここの魅力ですね」と話す。
「私たちは、若い学生からパロロで暮らすおじいさんまでが気持ちよく利用できる、地域密着の理髪店を目指しました。うちの店は、愛着のある昔のハワイをたたえているので、その要素が残る地域であることが重要だったんです」。
その一方で、昔のハワイの雰囲気は消滅しつつある。
ハワイの不動産価格は、かつてないほど高騰している。すでに、カイルアやカハラなどオアフ島の住宅地でも大規模な不動産開発が行われてきた。カイムキならではの変に気取らない、地元色の強い雰囲気が危機にさらされているという噂だ。
「化け物級の邸宅」と表現するのは、「パブリックペット」の共同経営者であるジョーダン・リーさんだ。
オアフ島のカリヒ、カパフル、そしてカイムキなどの地域では、20部屋もの寝室があるような巨大で四角い住宅が、まるで伝染病が蔓延するかのように急速に増えている。このような見映えの悪い家屋のせいで、固定資産税が上がる恐れがある。
「確実にジェントリフィケーション、いわゆる都市の富裕化への恐れがあります」とフクダさんは話す。「もともとあった建物が取り壊されて家族が追い出された地域が、元通りに戻ることは絶対にないでしょう」。
彼と、共同経営者であるジェニファー・フクダさんが自分の店を設計するとき、この地域に望ましくない目が向けられることに不安を感じていた。だが、ふたりは友人や地域の人々に何かこれまでとは違ったものを提供したい、自分たちが育ったハワイの文化や歴史に敬意を表したいと考えたのだ。
このような思いに悩むのはフクダさんだけではない。彼は、地元商店や仲間たちが集うムーブメントに参加しているという。
参加者たちはこの地域を純粋に愛し、その愛によって、カイムキに根付いているのと同じくらい特別な力を生み出している。
この力は、リーさんとマシュー・ゲバラさんが2017年にインスタグラム上で始めた運動で、「キープ・イット・カイムキ」としてご存じの方も多いだろう。
「『キープ・イット・カイムキ』を思い付いたのは、実際に地域を盛り上げ、小規模なビジネスオーナーが自分の身を立てるという、この新しい動きをたたえることが目的だったんです」とフクダさんは語る。
「チャイナタウン、カイルア、カカアコなどの地域で起こっていることを見ていて、それぞれに独自の雰囲気があることがわかったんです。カイムキには大らかなエネルギーや細部にちりばめられた魅力があり、都会的なつながりをもつ唯一無二な場所だと気づきました」。
今では、Tシャツやトートバッグ、店の窓に貼られたステッカーにもこの言葉があしらわれている。
「キープ・イット・カイムキ」ではストリートアートを描く催しや、「スモールビジネスサタデー」などの地域イベントを開き、地元商店に顔を売る機会を設け、コミュニティとの結束を強める。数多くのイベントが行われるワイアラエ通りのことを、リーさんは「カイムキ地区の宣伝コーナー」と呼ぶ。
リズ・シュワルツさんをはじめとするオーナーたちは、「キープ・イット・カイムキ」の言葉で地域が結束することを大いに喜んでいる。
「とても開放的で、誰ひとり、他人からおびやかされることなんてないんですよ。誰もが『私たちみんながこの地域の一員で、身近な人にできる限りのサポートをしている 』っていう気持ちなんです」と語る。
ワイアラエ通りには、確かにぬくもりのある精神が宿っている。ほぼ一日中、レストランやお店にいるとそれがわかる。
居心地の良いテラス席のある「ブリュード・クラフト・パブ」ではおしゃれなストリングライトが輝き、通りのちょうど反対側には、ロマンティックな雰囲気のビストロ「マッド・ヘン・ウォーター」がある。
ワイアラエ通りの向かいの端にある「コーヒートーク」は、高い天井の店舗から発散されるエネルギーが伝わってくるし、店舗カラーを水色で統一した「パイプライン・ベイクショップ&クリーマリー」では、地元のマラサダとデザートを提供している。
ワイアラエ通りに足繁く通えば、いくつかの用事をこなせるばかりか、地域の人たちが本当に自慢できるものを手に入れられるという、ほかにはない体験を楽しめるのだ。
ジョン・フック、クリス・ローラー=写真 キャサリン・ウォン=文 神原里枝=翻訳
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