当記事は「FLUX」の提供記事です。元記事はこちら。ホノルルにあるローカルな町カイムキには、「ゴールデン・ハワイ・バーバーショップ」という理髪店がある。
店内は懐かしさの漂うヴィンテージ感が魅力。オーナーの思い出の品で飾られたレイアウトはカイムキや昔のハワイへの想いが込められている。
「ゴールデン・ハワイ・バーバーショップ」に入ると、過ぎ去った日々に思いを馳せずにはいられない。店内には、オーナーのグラント・フクダさんが家族の思い出の品から厳選したものが並んでいる。
ハワイ出身のロックバンド、カラパナのLPレコード、祖父の写真、子供の頃に使っていたスケートボード。壁にかかった一つひとつの品が過去へと誘ってくれる。
私も、大切な記憶やこれまでの人生が幾層にも重なって蘇ってきた。どの品にもエピソードがあって、我先にと語りかけてくる。
2017年に開業したときから、グラントさんとジェニファーさん夫婦の一番の使命は、故郷であるカイムキに貢献することだ。「地元の人に魅力を感じてもらうことは絶対に外せませんでした。私自身もこの地域――すぐ近くのパロロで生まれ育ったからです」とフクダさんは話す。
「この店で成し遂げたかったのは、単に子供時代を思い出すことではありません。父も祖父も知っていた昔のハワイに敬意を払いたかたったのです」。
地元の人が上質な散髪(35ドル)を気持ちよく受けられ、自宅のようにくつろげる。そんな場所を作りたかったフクダさんは、店を自宅の延長のような内装にした。
「壁にあるものはほとんど私か妻が持ち込んだものです。妻が一番気に入っているのは、間違いなくブルース・リーのポスターですね。
止めても聞き入れてくれませんでした。家の壁にはかけられませんでしたが、ここも自宅のようなものですから、まあ良いでしょう」。
店では歓迎されていると感じるし、理髪師とは友人になったように思える。実際にそうだからだ。地元の人が心地良く過ごせる場所になるよう夫婦が力を注いだおかげで、地域にはかつての雰囲気が戻ってきた。
近所の理髪店に集まって親睦を深めていた頃の雰囲気だ。今は社会環境の変化もあり、地域に愛着を持つのは簡単なことではない。
だからこそ、真の意味での地元商店と近所の人が楽しく集まれる場所の重要性がかつてないほどに高まっているのかもしれない。
「今一番うれしいのは、気の置けない友人から電話が掛かってきて、みんなでランチを持参して店でだらだら過ごしたいと言われたときですね」とフクダさんは語る。
ミッドセンチュリーモダンの手作り家具に、1960年代のものを修繕した看板――看板の文字は、映画『サンドロット/僕らがいた夏』からそのまま拝借したような書体だ。
店内には踊りたくなるような音楽(ドゥーワップ、スカなど)が頻繁に流れている。ここにいると、すぐ自分の世界に入り込んでしまう。
私も想像が次々に浮かび、iPhoneなどない時代までさかのぼって、1955年製のオートバイを購入したかった頃のことを思い出していた。チャック・ベリー風の不思議な夢でも見ていたようだ。
店が相当レトロな雰囲気であることをたずねると、フクダさんはこう答えた。1970~’80年代のホノルルで育ったので、この雰囲気が自分の美的感覚に合っているのだと。
「特に影響を受けたのが、理髪店と暴走族の文化です」と言いながら、フクダさんはおじが撮影した写真を指さした。写っているのはレザージャケットに身を包んだ威勢の良さそうな若者たちで、1950年代半ばの元祖ハワイアン・モーターサイクル・クラブの初期メンバーだったという。
ソックホップ(※訳注 アメリカの’50年代のダンスパーティー)にミルクシェイクバー……そんな1950年代はもう戻ってこないかもしれないが、今でも身だしなみを整えたいという需要は変わらない。
現代人らしい髪型でも、ずっと求めていた「心の中の暴走族」を引き出したいという要望でも、「ゴールデン・ハワイ・バーバーショップ」なら存分にかなえてくれる。
リラックスして、アロハ・ビア・カンパニーのビール(無料サービスだ)を片手に、蒸しタオルで顔を包まれる。そんな午後を過ごすのも悪くないだろう。
詳しくは、
goldenhawaiibarbershop.comをご確認願いたい。
スカイ・ヨナミネ=写真 ナザレス・カワカミ=文 加藤今日子=翻訳
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