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ロケットの開発現場とは、技術との闘いによって成り立っている

田川 実は僕、種子島宇宙センターで、実際にH-IIAロケットの打ち上げを見ているんです。当時、 20代前半だったんですが、山中さんに同行して、種子島宇宙センターへ行ったんです。
打ち上げの光景はもう、人生観が変わりました。なんというか、人間のスケールを超越したものに圧倒される感じで。
岡田 そうでしたか、ロケットは膨大なエネルギーが凝縮した乗り物ですからね。天気にも恵まれたんですね。
種子島宇宙センターの大型ロケット発射場
田川 はい。その形容しがたい感覚は、今もはっきり覚えていますし、当時も会う人会う人全員に打ち上げの見学を勧めました(笑)。「絶対、見に行ったほうがいい」と。
岡田さんはそんなH-IIAロケットの後継機にあたるH3ロケットの責任者をされているということで、そのプレッシャーたるや、悲喜交々含めて途方もないだろうなあと思います。
岡田 ロケットの開発現場というものは、技術との闘いの積み重ねなんですね。それが宿命のようなものです。
緊張の糸が緩むことのない状態ではありますが、その積み重ねの総仕上げが打ち上げです。まさに一発勝負。打ち上げは確実に成功させなければなりませんから。
LE-9エンジンの燃焼試験の様子。
田川 H3ロケットの開発はどの程度まで進んでいるのでしょう?
岡田 今は9合目あたりといえますね。昨年、9合目まで一度登ったんですが、開発中のメインエンジン「LE-9」の燃焼試験で、設計変更したほうがよい技術課題が生じたことで、8合目まで引き返しているんです。苦渋の選択でしたが、打ち上げそのものも、2020年度を21年度に見直させてもらいました。
そして今、再び9合目まで登ってきたというところです。もう山頂は見えてるんですが、山頂を前にとてつもない急坂が待ってまして、今からその急坂をロッククライミング状態で登っていく。そんなところです。
田川 急勾配の9合目から山頂までは、どのようなプロセスがあるのでしょう。
岡田 ロケットの機体(試験機1号機)は、すでに種子島宇宙センター内で組みあがっていますが、 LE-9エンジンは開発の最終段階にあります。
このエンジンは、昨年5月に私たちの想像を超えた複雑な現象で課題が生じました。今この課題を克服しつつあるところで、これからあと数か月で仕上げる予定です。
田川 そういったいわゆるトラブルが起きたときに、何を支えとしていますか?
岡田 やっぱり「成功させてやろう」という気持ちですね。その気持ちが背中を押してくれてるんですけど、それでもこれまで経験したことのない新しい試験に臨むときは、緊張を通り越して怖く感じることもあります。想像を超えるような現象が目の前に現れるので。
ですが、目をつぶらずにその現象と対峙していると本質である物理が見えてくるんです。すると克服できるというのがわかってくるので、そうした経験の積み重ねによって、ここまでこれたと思います。
田川 そのプレッシャー、僕には想像できないです。
岡田 どんなに高度なシミュレーションをしても100%完璧ということはないんです。多くの技術課題はそれを超えたところで生じるので。課題が生じるとそのまま開発を続けるわけにはいかないので、常にリスクマネジメントに心がけています。
第2の設計を用意しておく、交換部品を準備しておくなど。ですが、打ち上げを延期させていただいた残りの時間も限られています。ここが正念場、頑張りどころという状況です。
田川 打ち上げが、本当に迫っていると。
岡田 はい、今年度中に試験機1号機を打ち上げます。


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