OCEANS

SHARE

  1. トップ
  2. ライフ
  3. リゾート開発は自然を壊す? 星野リゾート・代表の答えは「環境共生型リゾートに未来がある」

2021.07.12

ライフ

リゾート開発は自然を壊す? 星野リゾート・代表の答えは「環境共生型リゾートに未来がある」

新しい形のリゾートがヨーロッパを中心に増えている。そう教えてくれたのは、国内外で多くのリゾートや温泉旅館、シティホテル、スキー場を経営する総合リゾート運営会社「星野リゾート」で代表を務める星野佳路さんだ。

星野さんの話す大自然と調和する“環境共生型リゾート”とは一体どんな形態なのか? 詳しく伺った。
 

今、大自然と同化して建つリゾートが増えている

リゾート開発は自然を壊す?星のや・代表の答え「環境共生型リゾートに未来がある」

北欧のノルウェーに建設中のオーロラを部屋から見られるリゾート、周囲を野生動物が行き交う南米パタゴニアの国立公園近くのホテル、砂漠に溶け込むように建つアフリカのロッジ。

これらは一例にすぎないが、いずれも海沿いにひしめく形で高層ホテルが乱立するワイキキのようではなく、周囲の自然と景観美に意識的に配慮しながら、ひっそりと建っているところに特徴を見る。
advertisement

数年前に訪れたタヒチで知ったリゾートのことも思い出した。それは現地のガイドに教えてもらった「ザ・ブランド」。
タヒチ本島から50kmほど離れたテティアロア環礁に浮かぶアイランドリゾート(写真の最も手前の島に立地)で、アクセスは本島からのホテル専用機を使ってのみ。宿泊客だけが上陸可能な島は透明度の高いラグーンに囲まれ、その美しさから、かつてタヒチ王族が避暑地に選んでいたほどだった。

のちに故マーロン・ブランドがやはり美しさに見惚れて島を所有。逝去後、2014年に名優の名を冠して誕生した同リゾートは、太陽とバイオによるエネルギーを島内で生産し、深海水による冷房システムを導入するなど、周辺環境を保護し、守り続けることを課題としている。

この「ザ・ブランド」のような、ツーリズムという経済活動によって美しい自然を汚さない“環境共生型”リゾートはなぜ増えているのか。1980年代から世界中のリゾートを自ら闊歩し、リーダーとして「星野リゾート」を牽引する目から、現在の潮流を教えてもらった。
2/4

自然環境を守るためのツーリズムの形とは?

近年、なぜ環境共生型リゾートは増えているのか。そう問うと、星野さんは「環境を保全するため」と答えてくれた。環境を保全する資金をツーリズムという経済活動で得るというのである。

「ヨーロッパのアルプスもアメリカの国立公園も、保護と活用を両立してきました。観光として活用するから経済効果が生まれ、収益の一部が活用や保護のために使われる。

活用のためには掲示板の多言語化や遊歩道の設置など環境整備が必要ですし、保護には研究や保護活動などが必要です。これらの資金を日本は税金で賄ってきたのですが、海外では“エコツーリズム”という経済活動でお金を循環させてきました」。

さらに自然の良さや貴重さを広く伝えていくこともエコツーリズムの重要な役割であり、自然環境に対する理解者の獲得も目指す。海外ではそのような考え方が早くから根付いていたのだと星野さんは言う。
advertisement

スイスのツェルマットでは、’61年にガソリン車でのアクセスを禁じたカーフリー制度が住民から提案されている。もう60年も前に、氷河をはじめとする雄大な自然を資源かつ財産と捉え、美しくクリーンな町を維持するための取り組みがスタートしていたのだ。

「最近ではオーストリアのオーバーレッヒで興味深い開発がありました。日本の老舗温泉旅館のような古いホテルが立ち並ぶ村で、昔から観光で有名な素敵な場所なんですが、サンアントンやステューベンといった周辺のスキーリゾートが力をつけてきたことで長く集客力が落ちていたんです。

そこで18軒のホテルオーナーが団結して、改めて自分たちの村のコンセプトを見直そうという動きが起きました。結果として彼らが取った策は車の排除。村から遠い場所に大きな駐車場を造り、そこからは地下道を通ってホテルにアクセスするようにしたんです」。

車を排除すると道路がなくなり、地上のすべてが冬はゲレンデとなり、夏は草原となった。美しい景色だけが残ったのだという。
「景観を壊していたのは何か?車や道路、白い雪を黒ずませる排ガスだったんです。ものすごく大きな決断なんですけれど、美しいアルプスの風景を取り戻すことでオーバーレッヒは大復活を遂げました」。

集客力が落ちた理由は経済原理に求められる。自然観光においては環境に配慮する姿勢を市場は評価し、お客は戻ってくる。それが今という時代なのだと、星野さんは指摘した。
3/4

次の記事を読み込んでいます。