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ビームスのメンバーが可能性を感じたのが、防水透湿素材「ゴアテックス」だ。意外と知られていないが、ゴアテックスはすべてのアパレルメーカーが扱えるわけではない。素材の供給元である日本ゴアと契約するグローブライドなど一部のメーカーに限られている。
いくらノースフェイスのようなゴアテックスを使ったマウンテンパーカーを開発したくても、通常のアパレルメーカーは作ることができないのだ。
協業開始から7カ月後の2019年10月、自ら商品を着て解説するビームス メンズカジュアルディレクターの中田慎介氏(写真:佐々木仁)
服はトレンドのオーバーサイズのシルエットにこだわり、細部にフィッシングの要素を落とし込んだ。ベストには釣りの小物を下げることができるように、ホルダーを付けた。
グローブライド側はフィッシングの知見を服作りに生かした。あるとき、ビームス側からジッパーを金属にしたいという要望があった。でも金属のジッパーは、海水がかかると塩の影響で上がらなくなってしまう。そこで樹脂に金色の塗装を施した。こうして「協業しなければ作れなかった服」が出来上がった。
服作りと並行して「見せ方」の策も練った。ブランドを立ち上げるときに鍵になるのが、セレクトショップや百貨店のバイヤーらを招く展示受注会だ。店頭に置いてもらうためには、展示会の会場でブランドの世界観や洋服をどう見せるかが大事になってくる。
世界観を演出するための1つの手法として、展示会場に撮影した写真を並べることになった。この写真の撮影地選びもビームスとグローブライドの知見が生きた。
ブランドイメージを左右する写真の撮影地は、世界中の釣りスポットを知り尽くしたグローブライドが知見を生かした(写真:グローブライド)
ビームスの日高氏は、商品を身につけたモデルを撮影するロケ地は、「人工的なものが何もない場所にしたい」と考えた。この要望に、国内外のフィッシングスポットを知り尽くすグローブライドの吉川隆・広報室長が選んだのは、北海道内のとある湖。「湖の周辺にシラカバの木立がある素晴らしいロケーションで、自分たちでは絶対に見つけられなかった」(日高氏)。
商品はビームスの店舗には置かず、限られたセレクトショップだけに卸す戦略も功を奏し、まだまだ規模は小さいものの売れ行きは絶好調だ。
ビームスのBtoB事業を統括する、社長室の池内光・本部長は「アパレルが厳しいからBtoBに切り替えたわけではなく、セレクトショップの運営とBtoB事業の両輪を目指す。『ビームスと組むと面白そうだ』と思ってもらい、相乗効果を生み出せるようなビジネスに成長させたい」と語る。

アパレルを入り口に釣り人口を増やす

グローブライドがアパレル事業のゴールに据えるのが、フィッシング人口の拡大だ。コロナ禍で3密回避のレジャーとして、フィッシング人気は急上昇している。同社は2022年の稼働予定で、ベトナムの釣り具工場を拡張し生産体制を強化する。これまで釣りと縁がなかった多くの人に楽しんでもらい、欧米並みの「フィッシング文化」を根付かせる考えだ。
グローブライドの小林氏はこう強調する。「老舗と言われる会社だからこそ、常に革新的なことを仕掛けないと。5年後、10年後を見据えて、臆せず新規事業に投資していきたい」。釣りブームの追い風を受け、快進撃はしばらく続きそうだ。
 
国分 瑠衣子:ライター
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記事提供:東洋経済ONLINE


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