初めてアートを購入したのは30代の終わり
今年63歳になる地主さんが初めてアートを購入したのは30代も終わりに近づいた頃。まさにオーシャンズ世代だった彼は当時、タイポグラフィで知られるカリフォルニアのアーティスト、ジェフ・カンハムの作品にひと目惚れした。
「あのときは“アートを買う!”という気負った感じは全然なくて、『これいいな、欲しいな』っていう単純な衝動だった」。
その作品は今も、リビングのいちばん目立つ場所に飾られている。
「横浜であったグリーンルームのイベントで、ジェフ本人が自分の画を一点一点、壁にピン留めしていて。本人は1枚ずつ売ろうと思ってたようだけど、全体を見た瞬間に僕の目が釘付けになっちゃって……。本人に『このままほしい』って言ったら『いいよ』って(笑)。
当時は円高だったこともあって、手頃だったのもラッキーだった。家に届いて、自分で壁に一枚一枚張り込んでいったんだけど、完成したときは声を上げて喜んだよ。アートを初めて家に飾ったときのあの感動は、ずっと忘れられない」。
子育てで忙しい頃はアートを購入する余裕はなかったが、ギャラリーを巡り、画集や写真集でアートに触れていたという地主さん。だが、カンハムの作品を購入してからオリジナルを持つ喜びを知り、以来20年、夫婦で好きな画を少しずつ集めてきた。
アートが家にひとつあるだけで、世界は変わる
「今、持っている作品は全部で十数点くらい。僕たち夫婦は自分たちの生活空間に馴染むものを選んできたから、家を住み替えるたびに一緒に移動してきた。スペースが足りなくてストレージに預けることはあっても、手放した作品は一点もないよ」。
地主さんはフォトグラファー、奥様の中山まりこさんはスタイリストであり、マディソンブルーのデザイナー。ふたりの職業柄、アートが身近にあるのは当然かもしれないが、“アートが好き”というレベルを超えて、どこかアートの持つ力に“摑まれている”感じもする。
とは言え、誰もが最初はアート作品など持っていない。地主さんも例外ではないし、安い買い物でもない。コツコツ買う必要があるが、まずは一点買うだけでも気持ちに変化はあるのだろうか。
この素朴な疑問に、地主さんは即答する。
「全然違うよ。部屋にひとつあるだけで全然違う。アートにはやっぱりパワーがあるんだよね。自分の家の壁を見て、『ここに何か置きたい』『何かを飾りたい』というパッションがあるなら、何か一点、選んで置いてみるといい。世界がブワッと変わるから」。
作品を何かひとつでも置くと、世界が変わる。置くと置かないとでは全然違う、そう断言する地主さんだが、アート初心者に向けてこうも助言する。「ユニークピースは高いから、エディションがある作品から始めるのもいいよね」。
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