今、ヴィンテージTシャツ市場が活況と聞く。そこでヴィンテージTの快楽にどっぷり浸かるプロふたりに、業界の実情を伺った。
──今日はかねてから親交のあるおふたりにお越しいただきましたが、簡単に自己紹介をお願いできますか。山口 「髭」という古着屋の店主の山口です。2017年からだから4年目かな。
──山口さんのTシャツの原体験から聞いてもいいですか?山口 親戚のおじさんが服好きで、小さい頃に結構服をくれたんですよ。その中にファクトの毛沢東のTシャツとかがあったりして、小学校の頃はよく着てましたね。それと『猿の惑星』シリーズとかも。
高橋 おじさん、相当お洒落だったんだね。
山口 あとはカート・コバーンの遺影がプリントされたTシャツを、誰かもわからずに着てたりしましたね。
高橋 (笑)。
──図らずも贅沢でしたね(笑)。次は高橋さんもお願いします。 高橋 エニティーというオンラインのTシャツ屋を主宰する高橋です。僕は葛飾の江戸っ子の4代目で、都内の私立中高に通っていたんですけど、中学がバスケ部で。その頃にマイケル・ジョーダンがきっかけでNBAが好きになって。電車の中吊りを見ていたらジョーダンの記事があって、買った雑誌が「ブーン」だったんですよ。
山口 そうだったんですね。
高橋 通学路にアメ横があって、そこに当時はいい古着屋がいっぱいあったから、学校帰りに通ったのがスタートですね。
山口 へぇ〜!
高橋 で、裏原前夜くらいの頃にそういうデザインの面白さに気付いて、ア・ベイシング・エイプにアンダーカバー、グッドイナフとかを初期から買ってたら、途中でどんどん価値が高くなっていって。Tシャツの原体験は何だったかな……。山口くん、よく思い出せたね。
山口 最近また古着で出てきたんですよ。で、「これ俺着てたな……」って思い出して。
高橋 俺は初めて行ったフリマで買ったナイキの発泡プリントのTシャツかな。半年後にそれがブートだって気付いてショック受けるっていう。
山口 あるあるですね(笑)。
高橋 でも、古着のTシャツ、本当に高くなったよね。
山口 う〜ん。まぁ、古着のTシャツってもともとがそんなに高いものってなかったじゃないですか。
高橋 だね。ナイキの風車とかローリング・ストーンズみたいなものは当時からあったけど。
山口 あと“パキ綿”(パキスタン産コットン)とかも昔から値はついてましたね。グレイトフル・デッドは2万円アップで、マウリッツ・エッシャーで8000円とかついてたり。でも、今日持ってきてるようなTシャツって1万円もしなかったと思うんですよ。それがいつからか急激に高くなった気がします。
高橋 そうだよね。僕、独立前に休みを取って初めてニューヨークに行ったんだけど、現地にはメイド・イン・USAの古着やスニーカーなんてもう全然なくて。コンバースもヴァンズも、リーバイスも。
たぶん、日本の古着屋さんとかが現地のバイトを雇ってスリフトを回らせて、買い占めてるんだと思うんだけど。でも、一方でまだ残ってたのがアートとか、そのあたりのTシャツなんですよ。
山口 それはなぜですかね?
高橋 たぶんだけど、こういう物って買い付けの指示が出しにくいんだと思う。珍しいグラフィックだとそれがバンドなのかアートなのか、映画なのかもいまいちわからなかったりして。だから、本当に5年前くらいまではまだまだヴィンテージTに今みたいな価値はなかったよね。
山口 ですね。あとは東南アジアの古着ブームも絶対関係ありそうです。
──特にタイは古着人気がすごいと聞きますが。山口 すごいですよ。あっちのディーラーから金額を言われるともうこっちの予算を完全に超えてるんで。特に有名なものとかはもう買えないですね。むしろ僕からタイ人のバイヤーが買いつけていったりしてます。
高橋 これまでにない動き。SNSの影響で世界がフラットになって、アジアの経済が伸びたっていうのもあるんだろうけど。海外セレブの影響もあるだろうね。
山口 カニエ・ウェストとかですね。特にバンドTは。
高橋 トラヴィス・スコットにヴァージル・アブローとかもね。
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