「37.5歳の人生スナップ」とは…… 2020年3月24日。新型コロナウイルスの猛威が世界に拡大するなか、この日、東京五輪の延期が正式に決まった。
オリンピック・パラリンピック史上初めてとなる大会延期。前代未聞の事態が多方面に衝撃を与えたのは記憶に新しいが、最も影響を受けたのがアスリートたちだ。「4年に一度」の五輪に焦点を合わせて競技生活を続けてきた彼ら・彼女らにとって、1年の延期はあまりにも大きい。
トランポリンの日本代表として北京五輪に出場し、2020年の東京五輪を目指していた外村哲也さんもそのひとり。出られようが出られまいが、東京五輪を機に引退しようと決めていた。けれど、「延期」はまったくの想定外だった。
今、既に第二の人生を歩き始めている外村さんに、アスリートとして過ごした半生と引退をめぐる葛藤、新しい挑戦について聞いた。
6歳でトランポリンの楽しさに心をつかまれる
トランポリン競技は、一般的なトランポリンのイメージとは次元が違うスポーツだ。
オリンピックでは、競技者が縦428cm×横214cmのトランポリンを使い、アクロバティックな空中演技で、ジャンプの美しさや正確性、技の難しさを競う。その跳躍の高さは8mに達するともいわれる。
1984年、ロサンゼルス五輪の体操銅メダリスト・外村康二氏の長男として生まれた外村さんは、6歳のときトランポリン競技に出会った。
父親の影響もあり、物心ついたときから体操をしていた外村さんにとって、トランポリンは「単純に楽しいと思える」対象だった。
「体操は親に言われたからではなく自主的にやっていたし、子供心にオリンピックに出たいと思っていましたが、正直に言ってつらいことも多かったんです。毎日柔軟体操をして、手の皮がむけても鉄棒を握って。つらいというより痛かったですね(笑)。
そんなある日、茨城県に住んでいた祖父母の家の近くにあったトランポリン教室へ遊びに行くと、トランポリン専門の先生が補助付きで宙返りをさせてくれたんです。それまで経験したことのない高さから世界を見て、体操のつらさやしがらみから自分を解放できた気がしました」。
既に体操の基礎を修得していた外村さんは、すぐにトランポリンのコツをつかんだ。周囲のどの子供より上手にトランポリンが飛べたことも楽しさに拍車をかけた。
「当初、トランポリンはあくまでも体操の練習の一環だったのが、やればやるほど自分にマッチするのはトランポリンだ、この競技を極めたい、世界一になりたいという思いが強くなっていって。結局、10歳のとき完全にトランポリン競技に転向しました」。
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