「Camp Gear Note」とは……アメリカやハワイに旅行に出かけた際、現地の人々がBBQを楽しむ姿を見て、「アメリカ人って、こんなにデカくてゴツいBBQグリルを使ってるのか!?」とカルチャーショックを受けたことがある。
日本人にとってのBBQといえば、取り外せる波状のメッシュ網(正式名称は「クリンプ網」)を四角いコンロに載せて肉を焼く手軽なスタイルが一般的だ。
しかし、第一次キャンプブームとともに日本に伝わった当初は、みんなアメリカ製のゴツいBBQグリルを使っていたという。
では、いかに現在のミニマムなスタイルへと変化を遂げたのか。
そこには、トタンでバケツや湯たんぽを作っている兵庫県の金属加工メーカー「尾上製作所」が深く関わってくる。
主力商品は、バケツ、湯たんぽ、ジョーロにチリトリ
尾上製作所の歴史は古く、戦後間もない1948年にトタン製の生活用品を扱う会社としてスタートした。
定番品のバケツ以外に、シーズン品として長らく湯たんぽが主力商品だったためか、どうしても夏場の売り上げは落ち込みがちだった。
そこで先代の社長が目をつけたのが、BBQコンロだ。
’80年代、時は空前のキャンプブーム。店頭に並ぶBBQコンロは、大きくて高価な海外製品ばかりだった。
当時の日本のBBQではホルモンを食べるのが一般的だったのだが、海外製品では網が大き過ぎて隙間から落ちてしまう。
ならば、より目が細かいクリンプ網を採用し、日本向けのBBQコンロを作ってみてはどうだろう、というアイデアが起点となった。
コンロの開発にあたり、尾上製作所が掲げた目標は「家族でBBQをするための食材費なども含めて1万円に収まる価格帯にすること」。
海外ブランドの真似をしても仕方がない。かと言って、安くて品質が悪いものでも意味がない。
自分たちはあくまで金属加工メーカーであるという自負を持ち、長年培ったノウハウを生かした日本人向きなBBQコンロを目指した。
こうして地元・姫路で生産された初代BBQコンロだったが、発売当初の売れ行きは苦戦続きで、何かと苦労が絶えなかったそうだ。
ようやく認知が広がって需要が生まれ始めると、今度は他社も海外を生産拠点にクリンプ網を採用した安価な競合製品を発売し始めた。
これに対し、彼らは海外を拠点としつつも、自社の金型を使って大量生産する手法を導入。コストダウンと品質の両立を実現した。
そうして販売を続けるうちに、「尾上製作所のBBQコンロ」のコスパとクオリティの高さはじわじわと話題を呼び、ヒット商品へと成長していったのだ。
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