チョコレート業界を変える魔法の機械
そう将来の夢を語りつつ、現在は目下進行中のプロジェクトに奔走中の日々。なんと、カカオ豆を入れればすぐにチョコペーストができる世界初の機械を開発し、すでに特許も申請中だという。
「ヒントになったのは、コンビニのカウンターコーヒーでした。今でこそコンビニで挽きたてのコーヒーが飲めるのは当たり前になりましたが、カウンターコーヒーができる以前は、コンビニでコーヒーといえば缶コーヒーだった。
そこにカウンターコーヒーが登場して、消費者は安価でおいしいコーヒーが飲めるようになったし、あるコンビニチェーンはこれで年間10億杯も売れるようになった。その結果なにが起こったかというと、質の良いアラビカ豆の輸入量が増え、コーヒー豆の輸入単価も上がったんです」。
おそらく、生産者が良いものをつくればそのぶん高く買われ、マーケットが広がるという「三方良し」が実現したというのが吉野さんの見立て。それでコーヒー業界は変わった。同じことがカカオ豆でできれば、チョコレート業界だって変わるはず。
「だから僕らが開発した機械をコンビニに置いてもらうのも大歓迎だし、ビーントゥバーの店に置いてもらえれば、お客さんが複数の生産地のカカオ豆から好きな豆を選んで、その場でホットチョコにして飲むことだってできます。
挽きたてのカカオは本当においしいので、世界中の消費者はもちろん、生産者にも味わってもらいたい。それを実現するために動いているところなので、楽しみにしていてください」。
バックパッカーとして鍛えた不確実性への強さと行動力。そして金融の世界で磨いたロジカルシンキングを武器に、吉野さんは今日もほんのちょっとだけ先の未来を見ている。
吉野慶一(よしのけいいち)●1981年、栃木県生まれ。慶応義塾大学経済学部、京都大学大学院、オックスフォード大学大学院卒業。18歳からバックパックで約60カ国を旅する。外資系金融機関などで金融アナリストとして勤務後「世界の現状を憂いたり、出来ない/やらない理由を声高に叫ぶだけでは、自分も世界も何も変わらない」と29歳で脱サラ。2011年にチョコレートブランド「Dari K(ダリケー)」を京都で創業する。2015年から4年連続でパリ「サロン・デュ・ショコラ」に出展し、国際的な品評会C.C.Cでは4度ブロンズアワードを受賞。
「37.5歳の人生スナップ」とは……もうすぐ人生の折り返し地点、自分なりに踠いて生き抜いてきた。しかし、このままでいいのかと立ち止まりたくなることもある。この連載は、ユニークなライフスタイルを選んだ、男たちを描くルポルタージュ。鬱屈した思いを抱えているなら、彼らの生活・考えを覗いてみてほしい。生き方のヒントが見つかるはずだ。
上に戻る 中山文子=写真 岸良ゆか=取材・文