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幻のユートピアのはじまり


テイラーキャンプの面々がハーエナの道の終着地点で見たのは、癒やしと自然回帰と一体感と平穏が得られる場所だった。人生初のことだったかもしれない。
当初13人で始まったテイラーキャンプは、100人以上の集団へと成長していく。はじめは口コミで、のちに報道を通じてその存在を知った世界中の人々が、自分も噂のキャンプで居場所を見つけようとカウアイ島行きのチケットを買ったのだ。
何の決めごともない場所として創設されたテイラーキャンプだったが、その小宇宙にもやがて外界の要素が入り込んでいく。無料で日用品を手に入れられる店や教会が建てられる中で、秩序が形成されていった。唯一の規則は「これ以上家を増やさないこと」。この規則によって、キャンプ内の人口は一定に保たれていた。
キャンプでの生活は、田畑を耕して、釣りをして、サーフィンやヨガやカンフーや精神修養に勤しむことだった。テイラーキャンプの居住者による斬新な理想論の多くが、今では社会の主流となっている。

テイラーキャンプが遠すぎるという人にとっては、近隣のカララウの世界も独特だった。ごつごつした海岸線に沿って、瞑想したような気持ちで長時間泳いでいくと、ハナカピアイビーチとホノプビーチで下向きの指のようにせり出す美しい崖が見えてくる。数百万年かけて雨風が作り上げた繊細な造形だ。
カウアイ島の素晴らしい自然の中では、時間だけが私たちを神に近づけてくれる。心を健やかにすることや、自然とともに生きることや、マリファナを栽培することや、ただ徹底的にひとりになることなどを求めて、多くのキャンパーが思い切ってナパリ海岸の奥まで分け入った。
彼らがこの魔法のような場所を目指したのは、テイラーキャンプの牧歌的な穏やかさに飽きてしまったり、常にドラッグに溺れていたり、逆にドラッグが切れたりしたときだった。ドラッグの幻覚症状がきつすぎたのかもしれないし、当時出回り始めていたもっと強いドラッグに病みつきになって、カウアイ島に避難して得られたはずの一体感や癒しの感覚を失ったのかもしれない。ナパリ海岸は、当時を思い出させてくれる場所だった。

キャンパーたちは、ここである程度の平和を見出していた。歓楽や裸の生活にふける人もいれば、生きる幸福をただ満喫する人もいたが、いずれにしても、その生活はハワイの現地住民をかき乱して苛立たせるものだった。激しい殴り合いが起きたこともある。


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