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2021.06.23

ライフ

小惑星リュウグウのサンプルに挑む。海や地球ができる前の有機物の進化を解く

当記事は「JAXA」の提供記事です。元記事はこちら
リュウグウの初期分析のためにNASAの共同研究者と日米合同リハーサルを行う高野さん。 ©九州大学、JAMSTEC、NASA

海や地球ができる前の有機物の進化を解く

海洋研究開発機構JAMSTEC(ジャムステック)の研究者、高野淑識さんは、「はやぶさ2」が小惑星リュウグウから持ち帰ったサンプルを分析する研究者の一人。
なぜ、海の専門家が、小惑星の物質分析を行うのか? 答えは、「リュウグウは、海や地球が誕生する前の水や有機物のリアルな姿を調べられる唯一のチャンス」であるから。
そこは、水と炭素が織りなす無生命的な現場、そして非生命的な物質の進化の謎を解く究極の現場である、という。

海のものでも地球外のものでも、物質を等しく見る。

火球となってクーバーペディ(オーストラリア)上空を通過する「はやぶさ2」の再突入カプセル。
―高野さんは普段、深海で採取した岩石や地球内部に含まれている微量のガスや有機物を分析されています。そんな高野さんにとって、リュウグウの物質分析を担うということはどんなお気持ちでしょうか?
高野 海や地球が出来る前の様子、そして、生命が生まれる前夜の様子を知りたいという気持ちが一番ですね。自身のライフワークの一幕として、「無生命的で、非生命的な究極の現場検証」です。
私の専門は有機地球宇宙化学です。普段、化学のツールを使って有機物について研究していますが、生命にとって水と炭素はもっとも根源的で重要な物質なのです。水と炭素の相互作用により、最初の有機物が誕生する。その有機物は、さらに高次な姿に進化する。そんなエキサイティングなリュウグウの現場を観察できるタイミングで、海と地球の研究所、JAMSTECに所属しています。
太陽系というスケールで考えれば、地球も小惑星リュウグウも、わずかな距離のお隣りさんです。海や地球の奥ゆかしさをミクロスケールで観る視点とともに、太陽系という広いスケールで物質を見たい。まだ誰も見たことの無い「ケミストリー(化学)」の現場検証をしたい。
海でも小惑星でも、太陽系を構成する物質という意味では、もともとは一緒ですからね。もしかしたら、リュウグウには、太陽系で最も古い有機分子の祖先があるかもしれない。その探求は、化学者にとって至上の瞬間ですね。
 
小惑星リュウグウ。 ©JAXA, 東京大, 高知大, 立教大, 名古屋大, 千葉工大, 明治大, 会津大, 産総研
―地球上には、深海や地殻から採取できる地球物質もあれば、例えば、南極氷床で回収される隕石のような地球外物質もあって、そのサンプルカタログが多いほど、太陽系の物質科学としての良い評価ができる、ということでしょうか?
高野 はい、その通りです。私は化学を使って、それらの物質の多様性や他の人には見えないような部分を見たい、という野心があります。「はやぶさ」初号機の時に、サンプルの評価依頼がありました。
また、次のプロジェクトの「はやぶさ2」では、新規のオペレーションや有機物を対象にした特殊な分析が必要になるかもしれないとお声かけいただき、それからJAXAとの関係が深くなっていきました。
―「はやぶさ」初号機が持ち帰った、小惑星イトカワの物質分析では、有機物について、手掛かりになるようなものはあったんですか?
高野 イトカワって岩石質なんですね。要するに炭素が少ない。水のシグナルはわずかに見えたのですが、いかんせん私の専門である有機化学、つまり炭素量が限りなく少なかった。ただ、仮に、炭素のシグナルがあった場合、それは何を意味するのか、起源の詳細を調べて欲しいという依頼を受けました。
サンプル量が少なかったので、分析の難易度が高かった。でも、その(極)微小な分析スケールに立ち向かうことで、新たな創意工夫が生まれ、「はやぶさ2」の技術開発に活かされました。イトカワの経験から、サンプル量としてどれくらいあれば、どこまで見えるのかという基準が明確になったんです。
「はやぶさ」初号機が持ち帰った小惑星イトカワの微粒子。
―オーストラリアでの「はやぶさ2」のカプセル開封作業は、はやぶさ初号機での経験を踏まえて行われたのですか?
高野 はい。「はやぶさ」初号機でのさまざまな経験値が、非常に良い教訓になりました。だから今回カプセルを回収して、クリーンルームで開封しサンプルの入ったコンテナを取りだす際にも、一番クリティカルに注力しなければいけない勘所がわかっていたと思います。理学および工学のスペシャリストで構成されるサンプラーチームによる各専門分野のゾーンディフェンスは、完璧でした。
まず、コンテナを取り出したあと、クリーンルームの中に設置された特殊な分析ラインに接続しました。そして、コンテナ内のガス採取と分析を同時並行で行いました。日本そしてオーストラリアでは、コロナでのスケジュール調整が難航するなか、何度も徹底的にリハーサルを行いました。
それでも本番になると全員、(もちろん良い意味で、良い緊張の中で)殺気立ってくるのが分かりました。息を呑むような瞬間の連続だったのです。
意識的にチーム全員で声を掛け合って、深呼吸したり、励まし合ったり、成功の瞬間に立ち会えた幸せをチーム全員で噛み締めました。一人の科学者として、本当に貴重な瞬間でした。
オーストラリアで特設されたクリーンルーム内部の様子。ここでサンプルコンテナから、ガス採取が行なわれた。期待と緊張感が室内に充満している。 ©JAXA、東京大学、九州大学、JAMSTEC


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