「Camp Gear Note」とは……「在宅ワーク」という言葉を耳にするようになって早1年が過ぎ、自宅で仕事をするスタイルにもすっかり慣れてきた。
家で過ごす時間の増加に比例して、コーヒー豆の消費量が圧倒的に増えた家庭も多いだろう。それに伴い、家でも出番が増えたアウトドアギアが魔法瓶である。
仕事中はいつでも温かいコーヒーや冷たいお茶が飲みたい。でも、何度も淹れに席を立つのは面倒くさい。こんな無精なリクエストを実現するこの便利な道具は、一体いつ、どのように生まれたのだろうか。
スチール製の魔法瓶は電気装置開発の副産物として生まれた
今でこそ、スチールの魔法瓶は当たり前のように私たちの生活の中に溶け込んでいるが、この画期的な製品を開発したのが「スタンレー」の創業者、ウィリアム・スタンレー・Jrだということをご存知だろうか。
発明家でありエンジニアでもあった彼は、最初の実用的な変圧器(AC電源の開発を推し進めるきっかけになったもの)を開発した物理学者としてもその名が知られている。スチール製の魔法瓶は、その変圧器を作る過程から生まれた産物だったそうだ。
当初の真空断熱ボトルといえばガラス製で、保温力の問題はなかったが、ボトルが損傷するとガラスが粉々になってしまい、耐久性の面に問題がある代物だった。しかも当時は大変高価で、壊れてしまったボトルの交換費用は約150〜200ドルもした。
そこで、ウィリアム・スタンレー・Jr.は変圧器の開発中に学んだ理論を、より頑丈で一生使えるオールスチール製魔法瓶の開発に適用したのである。
スタンレーが開発した魔法瓶には、「Char-Vac™テクノロジー」(現在は使用を停止)と呼ばれる、2層のステンレス鋼の壁の間にチャコールパウダーを詰めて真空状態を作り出す技術が採用されていた。
この独自技術は重くてかさばるものの、より丈夫で壊れにくいボトルを作ることを可能にした画期的なアイディアだった。
現在の製品には、この構造をさらに進化させた新しい技術を採用している。チャコールパウダーを抜き取り、外側の鋼壁を厚くすることで、優れた保温・保冷性能を保ったまま大幅な軽量化を実現しているのである。
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