一生の趣味である旅の中での役割
「デニムって、もともとは仕事着じゃないですか。でも、長い時を経てファッションアイテムになった。そういう歴史や背景があって、シルエットや素材などの流行がありながら、土台がブレないところが面白い。服の中でも何か特殊なカテゴリーのひとつだと感じます」。
こうしたデニムの本質については、共感できる読者も多いだろう。
「パンツだけではなくてジャケットもある。着こなし次第で印象も変わる。非常に受け皿が広いので、いろいろな角度で付き合えるのがいいところ。今まったくはかなくても、ずっと近くにいてくれる存在です」。
青木さんといえば、旅好きでも知られている。ドキュメンタリー番組の出演のみならず、盟友・加瀬亮さんを訪ねる初監督の映像作品『あおきむねたかの「ウズベキスタン」までちょっと会いに。』などからも、行動的なキャラクターが見て取れる。デニムは、そうした気軽な旅のお供でもあるそうだ。
「バックパッカーだった20代の頃は、例えば1カ月の旅なら、デニム1本で過ごすのが基本。バリバリになるし、汗やホコリまみれで汚くもなるし、臭います(笑)。でも、すごくいい相棒になる。手元に紙がないときは、デニムに直接ペンでメモったり、暇な移動中は落書きしたりして、キャンバスになる(笑)」。
そうしたデニムは、たいてい古着だそうで、旅を終えるとその一生も終えるのだ。
「旅の間は、デニムがそのテンションについてきてくれるんです。でも、旅が終わると、東京の生活でそれをはくのは、なんか気分と合わなくて。不思議なもので、そういうデニムはどこかに消えていってしまいます。死に場所を選ぶ、老いたゾウみたいに(笑)」。
えも言われぬロマンティックな感じが、青木さんらしい逸話だ。
柏田テツヲ=写真 石黒亮一(太田事務所)=スタイリング 佐鳥麻子=ヘアメイク 髙村将司=文