OCEANS

SHARE

電気自動車時代の前に、古い車を味わいたかった

「もういいかな」と思ったという。

もう車にスピードやパワーを求めるのはやめた、と。ではどうする? そう自問してみると、結構あっさり答えが出た。「味を求めよう、と思ったんです」。

オリジナルの「ニューカレドニア」の塗料を仕入れて、キレイに塗装し直されている。このカラーはフランス領ニューカレドレニア向けに輸出されたキャトルに本来は使用されていた色。なぜか日本に入ってきた。


地球温暖化対策の一環で、先行していたヨーロッパに続き、日本も2030年代半ばにガソリン車の新規販売を禁止すると報じられた。

「もうすぐ電気自動車の時代になるらしい。だったら最後に、好きな古い車、それもクラシックカーではなく、車をイジれない僕でもなんとか扱えるくらいの、ぎりぎり古い車を楽しもうと」。

そこで古い車好きの仲間に相談したり、自分で調べた結果、ルノーのキャトルを見つけた。1961年から1992年まで、実に30年以上も販売されたロングセラーモデルだ。

「やっぱり現代のインジェクション(燃料噴射装置)ではなく、キャブレター(燃料を気化して混合気を作る装置)の車がソウルフルだと思ったんです。

けれど、キャブを使っているような古い車に、自分が乗れるかなという不安もありました。ところがキャトルは’80年代に入ってもキャブ仕様という、あり得ない車なんです」。

「“キャブ仲間”がいるんですよ、みんなキャブレター仕様の古い車に乗っていて、僕を含めて4人」。


例えば1985年に登場した名車メルセデス・ベンツW124は、もちろんインジェクションを搭載していたし、そもそも初めて搭載したメルセデス・ベンツ300SLは1954年にデビューしている。

「キャトルは世の中がインジェクション時代になっても、デビュー時とほぼ変わらないまま売られていた、稀な車です」。

そんなキャトルの、比較的新しい’80〜’90年代の中古車であれば故障も少ないはず。それに、ちょうど父親が乗っていた日産ノートを手放すという。ノートなら仕事で扱う原反(製品になる前の生地)が積めるし、万が一キャトルが整備のため入院しても、日々の業務に支障を出さずにすむ。

輝いているシルバー部分は、販売店のオヤジさんによるオリジナルパーツ。ジュラルミンなどが使われているらしい。


そう考えた小林さんが見つけたのが、現在の愛車だ。「色もいいし、これまでの整備状況がA4用紙にびっしりと書き込まれていたんです。しかもその整備をしたのは、販売店のオヤジさんでした」。

これなら素人でも安心して乗れそうだ。

そこで販売店を尋ねると、逆に「どんな風に乗るつもりだ?」と質問された。コレクションとしてとっておくのではなく、毎日のように乗りたいのだと伝えると「だったらしばらく時間をくれ」と言われた。毎日乗っても困らないよう、しっかり整備するという。

シートは普通はネイビーのチェックが多いが、このキャトルは淡いブルーのチェックに。オリジナルのまま。インパネ部分も、多いのは黒だが、この車はキャメルカラー。


整備といっても、パーツがないものはオリジナルで作るしかない。「結局、9月に依頼して、12月くらいに『上がった部品が気に入らないのでもう一度作り直したい。もう1カ月!』と言われました(笑)」。



4/4

次の記事を読み込んでいます。