プロじゃないんだし、リアルフードを補給食にして走りたい
「トレイルランニングのことはナイキの人から聞いたんです。山道を走るランニングがあるんですよねって。それでやってみたらこれまた面白くって」。
トレイルランニングでは丸一日走ることもあるし、チャレンジングなレースだと夜通しで移動し続けることもある。そうすると運動中に何らかの栄養補給が不可欠だ。
そのための食品を調達しようと専門店に行くと、棚にはさまざまなエナジージェルが当たり前のように並んでいる。
「1日3食のうちの2食分をまるまる、ハイカロリーなジェルやドリンクに置き換えることが半ば前提となっているんですよね。トップアスリートならいざ知らず、こっちは普通に生活していて趣味の一環で走っているだけなのに、高機能なのだからと1時間に1~2本のジェルを無理やり口に流し込む。
そのことに違和感を感じてしまい、『ちゃんとしたリアルな食事でもいいんじゃない?』と、リアルフードによる自前の補給食にこだわってみることにしました」。
つまり、食をアップデートさせたのだ。その取り組みが奏功したのか、2012年に八ヶ岳で開催された幻の100マイル(160km)レースに出場し、見事に完走する。
かたやトップランナーの多くは胃腸トラブルでリタイアするという現象が起きていた。長時間のレースにおいて、ハイカロリーなジェルばかりを補給し続けると、胃腸に負担がかかるという知見がまだ広まっていなかったのだ。
「すると、周りの仲間たちから『ドミンゴさん、どんな補給しているんですか』って不思議がられたんです。そこで食事がファクターになると気が付きました。
やがて仲間の声を受けて食のイベント『ウルトラランチ』を不定期で開催することになります。そのイベントでは例えば、エネルギー効率に優れたジェルを常用していると、『普通の食事から栄養を取り込みにくくなるのでは?』という提案などをさせていただきました。
ランナーって好奇心が強い人が多いと言いますか、そういう提案に対してちゃんとリアクションしてくれるんですよね」。
もともと料理には興味があった近田さんだが、ウルトラランチの活動を通じて食の面白さを再発見し、飲食店を構えることになったり、ケータリングの依頼が舞い込むようになったり、山でおいしいご飯を食べたいからとの声を受けてレトルト食品を開発してみたり。それがウルトラランチという小さな食品メーカーの現在につながっている。
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