宗教でもアスリート的な理由でもない、カウンターとしてのヴィーガン食
ウルトラランチはヴィーガン食を提唱している。
カール・ルイスをはじめ、欧米のアスリートにはヴィーガンが少なくないと言われているが、近田さんはパフォーマンスのためにヴィーガンを選択しているわけではない。
「そう、ヴィーガン食に栄養的なスペックを求めているわけじゃないんですよ。単に小さな食品メーカーとして、ビジネス上の差別化をするためというのが理由のひとつ。僕自身が完全な菜食主義者ではありませんしね。ただ、極力今の食肉業界から距離をおきたいとは思っています。
オリジナルカロリーという考え方があるんですけど、例えば1000kcalの牛肉を得るためには、その10倍以上の穀物飼料が消費されているという試算があります。
世界の人口問題や持続可能性を考えたときに、オリジナルカロリーそのままの穀物や野菜で美味しく楽しい食卓が成立するとしたら、それに越したことはないじゃないですか。だからときどきで全然OKですし、そのための食品やレシピ、献立案を作りたいと思ってるんです」。
アウトドアやトレイルランニングの業界では、「ガレージメーカー」と呼ばれる、インディーズバンドのような小規模のブランドが個性的なアイテムを作ることで存在感を発揮しているが、ウルトラランチもどことなくそれに近い。
トレイルランナー的な価値観と共鳴しあうのか、実際にウルトラランチの食品はランナーからの関心が高い。今最もホットな商品は、オンラインで販売を開始したばかりの「マサラベース」だ。
「このところレースなどには出ていなくって、週に3、4回ほど、リフレッシュのために5~10kmを走るのが日常です。時間帯としては午前中が多いのですが、マサラベースの開発中は主にランニングを終えたあとに試食していました。
朝食をあまり食べない食生活なので、その日最初の食事になるわけですが、このマサラベースだとサッと時短で、しっかり栄養の摂れるカレーを食べられるんですよね」。
マサラベースはトマト1個に、ひよこ豆などのお好みの具材と、大さじ3杯の水を加えて煮込むだけ。沸騰後6分で完成するので、モニターからは「専門店の味が自宅で」「レトルトカレーよりも良い」「副菜が必要ない」という声が寄せられているとか。
スパイスの豊かさを活かすために真空パックされているが、賞味期限は5カ月ほどで、なるほど確かに大手食品メーカーではなかなか生まれない食品だろう。
トレーニング時間を捻出する手助けにもなるウルトラランチの食品は、ランナーフレンドリーな食品ともいえる。おまけにランニングを通じて食や体に意識を向けると、見えてくる世界がさらに広がってくる。そのアップデートがまた面白い。
もちろん、「食」にパフォーマンスアップを求めるシリアスランナーにも打ってつけだ。
RUNNER’S FILE 29 氏名:近田耕一郎 年齢:48歳(1972年生まれ) 仕事:食品メーカー代表 走る頻度:平日3回、週末1回。5~15kmほど 記録:100マイルレース完走 |
連載「Running Up-Date」一覧へ「Running Up-Date」ランニングブームもひと昔まえ。体づくりのためと漫然と続けているランニングをアップデートすべく、ワンランク上のスタイルを持つ “人”と“モノ”をご紹介。街ランからロードレース、トレイルランまで、走ることは日常でできる冒険だ。
上に戻る 礒村真介(100miler)=取材・文 小澤達也=写真