世界でもっとも売れたマスターピース
スタンスミスには前身となるモデルがある。1964年に誕生したハイレットだ。フランスのテニスプレーヤー、ロバート・ハイレットの全仏での活躍を受けて、記念につくられた。
これをのちに履いたのがスタンレー・ロジャー・スミス(通称:スタン・スミス)である。1960年代後半から70年代前半にかけて活躍したアメリカのテニスプレーヤーで、国別対抗戦のデビスカップでアメリカチームに7勝をもたらした立役者だった。シングルでも全米、全英と二連覇を果たした。自他ともに認めるアメリカのスター、スミスが履いて、ハイレットは爆発的にヒットした。
アディダスはすっかりスミスの顔として定着したそのスニーカーに彼の名を与えるのみならず、もうひとつ、粋なあしらいをした。シュータンにあしらった似顔絵とサインがそれである。
そうしてスタンスミスは1991年には累計2200万足を販売、“世界でもっとも売れたスニーカー”として知られるようになった。
ハイレットによって誕生したスペックの多くは、そのままスタンスミスに引き継がれている。
レザー素材のアッパー、アディダスのアイコンであるスリーストライプスをかたどったパーフォレーション(通気孔)、そしてアクセントカラーをあしらったヒールパッチ。いずれも当時のテニスシューズとしては画期的なものであり、機能美を極めたデザインワークは時の流れに抗う強さがあった。
現在はファレル・ウィリアムスを筆頭にファッション業界とも密につながり、ネームバリューはますます高まっている。
サステイナブルな方向へと舵を切るそのマニフェストに選んだのがスタンスミスだったのは当然といえば当然だろう。この大役を任せるのにスタンスミスほどふさわしいモデルはそうはない。
キャンバスがデフォルトだったアッパーに先んじてレザーを採用したスタンスミスがいまふたたび、その常識を塗り替えようとしている──という事実がまた味わい深い。
[問い合わせ]アディダスお客様窓口0570-033-033竹川 圭=取材・文