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アートは人々を苦しみから救うことができるのか

そして「アートでガーナを救う」宣言から約3カ月後の2018年3月、廃棄物を使って描いた油絵作品を30〜40点用意して展覧会を開催した。ここで、ある作品に1500万円の値がついた。
「それまでは自分の作品って高くても60〜100万円で、だいたいは数万円〜10万円でした。それがいきなりトップアーティストと同じような値段がついてびっくりしちゃって。
最終的にそのコレクターの方はほかの作品も含めて2500万円で買ってくれたんです。思わず『なんでですか?』って聞いたら、『君は本物のアーティストだから。アートって人を救うためにあるから』って言ってくれて」。

これはただの幸運な出会いなのか、あるいはその人の言うように本物のアートとして作品が認められたのか、にわかには自信が持てなかったと長坂さんは言う。
あるいは急にそんな大金を手にして自分が変わってしまうんじゃないかという不安も自分の中にあった。
しかし、長坂さんは一心不乱に作り続け、彼の作品は売れ続けた。2018年の売り上げは5000万円、2019年は1億5000万円、そして2020年は3億円となった。その間に、アグボクブロシーには完全無料の学校とアートギャラリーができた。

「目標は2030年にリサイクル工場を作ること。ここでゴミを資源化してリサイクル材料として輸出する。今まで僕が絵を描くことで減らせたゴミは500kgですが、リサイクル工場ができれば月に100トンのゴミを減らすことができる」。
長坂さんは、アグボクブロシーの人たちが自分の力を引き出してくれたと言う。そして、その力で生み出したアートで得た利益を彼らに還元する「サステイナブル・キャピタリズム」を実践している。
たまたま手にした雑誌に載っていた写真との出会いに始まるこの展開は、長坂さん曰く「神様の脚本」だ。
「今では“自分が生まれた使命ここにあり”って思っています。目標まではまだまだだし、不安はある。でも悩んでいる暇はない」。
アグボクブロシーはもともとは美しい湿地帯だったという。その姿を取り戻し、子供たちの健やかな未来を作るべく、ゴミの山を宝の山に変える長坂さんの挑戦は、これからも続いていく。
 

美術家・長坂真護さんがクラウドファンディングを実施中!

彼の活動を追ったドキュメンタリー映画『Still A Black Star』(カーン・コンウィザー監督)の公開を実現するための費用をクラウドファンディングで募っている。締め切りは2月14日(日)。
長坂真護(ながさかまご)●1984年福井県生まれ。文化服装学院卒業後、歌舞伎町のホストを経てアパレル会社を設立。しかし1年で倒産し、路上の絵描きに。2010年に史上最年少でサマーソニックのアート部門「ソニックアート」に出場。また、アカデミー賞の前夜祭「2017 Oscar VIP Gift Lounge」に出展し、日本人初となるライブペインティングを披露し注目を浴びる。2017年にガーナのスラム街アグボクブロシーを訪れたのを機に、不法投棄された廃棄物を使った作品を制作・販売する。2018年〜2019年にかけて、現地に学校とギャラリーを設立。「サステイナブル・キャピタリズム」を掲げ、アート活動と経済活動、そしてガーナの社会問題解決のための活動を同時に展開している。
「37.5歳の人生スナップ」とは……
もうすぐ人生の折り返し地点、自分なりに踠いて生き抜いてきた。しかし、このままでいいのかと立ち止まりたくなることもある。この連載は、ユニークなライフスタイルを選んだ、男たちを描くルポルタージュ。鬱屈した思いを抱えているなら、彼らの生活・考えを覗いてみてほしい。生き方のヒントが見つかるはずだ。上に戻る
川瀬佐千子=取材・文 中山文子=写真


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