人生最大の転機となったガーナのスラム訪問
「それまで、“子供が好きだから保育士になる”とか、“ボランティアで人の役に立つ”とか、そういう考えって僕の中ではちょっと恥ずかしいというか、格好悪い世界だったんですよ。でも自分の自我を実現することに興味がなくなったとき、ふと『人のために』っていう気持ちになって」。
そして、ある経営者と待ち合わせた際にたまたま手にした雑誌「フォーブス」で、ゴミの山に囲まれたスラムに生きる子供たちの写真を目にしたことが長坂さんの心に火をつけた。
「なぜこんなことに?」「この子供たちはどうなる?」と調べていくうちに、どんどん気になっていった。そんななか、ガーナにゴミの投棄で深刻な問題を抱えたスラムがあることを知り、行ってみようと思い立つ。
「お金もちょうど足りるくらいあって。渡航禁止のエリアだったけど、刺されてもいいやくらいの気持ちでした。今思えば、普通の精神状態じゃなかった。でも、行かなきゃと思ったんです」。
そして2017年6月、長坂さんは単身ガーナのアグボクブロシーを訪れた。世界最大級の電子機器の墓場と呼ばれるスラムだ。
そこで彼が現地で目にしたのは、「知らなきゃよかったとも思った」というくらい、過酷な現実だった。
現地の人々は、先進国の人間が出した電子ゴミを燃やして金属を取り出し、それを売ることで生活している。ゴミを燃やしたときに発生する有毒ガスは体を蝕み、癌を患って亡くなる人が多いという。
「帰る前の日に現地の人に『また来るか?』って聞かれたんです。自分の中では半分『二度と来ない』と思ってたんだけど一応『来る』って答えたら、『次来るときに君のそのマスクが欲しい』って言われたんです。
俺、防ガスマスクを着けてたんですよ。『自分はまだ死にたくないから、次に来るときにはそのマスクを持ってきてほしい』って」。
分かった、と答えて帰国した長坂さんだったが再訪するかどうか決めかねていた。しかし、帰国後に入っていた仕事のスポンサーが、なんとそのマスクのメーカーだったというミラクルがあり、防ガスマスクを200個提供してもらえることになったのだ。
しかも、その仕事のギャラは、渡航費を賄うことのできる金額だった。
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