夢は暴走するけれど現実は甘くない
仕事をひとつ達成するたびに、絵描きとしてこうありたいという理想はどんどん膨らんでいたという。でも、現実は厳しくなかなか理想通りにいかない。そして諦めてしまったり、挑戦に飽きてしまったりした。
「例えば、29歳のときにせっかくコンテストで勝ってニューヨークへ行ったのに、ギャラリーに全然相手にしてもらえなくて心折れちゃって、ビザの途中で帰ってきちゃった。
昔からそうなんですよ。絵本の企画を作って出版社に行ったときも『悪くないけど、まだまだかな。もう一回作ってみて』と言われるともうダメ。あんなに自分の中で盛り上がって『絵本作家になるぞ!』と思ってたのに、心折れて『やーめた』って」。
そんな自分自身について、長坂さんは「自分の中の“暴れ馬”を乗りこなせなかった」のだと表現する。
「なんかね、自分の中にいるんですよ、“暴れ馬”が。そいつが『これやろう! 俺いける!』って夢膨らませて暴走するんですよ。それで自己暗示みたいに、『絶対できる。絶対実現する』って思い込んじゃう。
でも現実的にはうまくいかなくて凹んでボロボロになる。でも、その暴れ馬は自分自身だから離れられない。そのうちすぐにまた暴走し始める。乗りこなせると思ってまた振り落とされる。その繰り返しでした」。
それでも絵は描き続けた。そして2015年に発表した写実的な人物画「無精卵をかぶる女」が高い評価を得て、初めて東京で開いた個展で400万円ほどを売り上げた。
「そのお金で住居兼アトリエを借りました。日本橋馬喰町の築50年のビルです。長らく住所不定だった僕にも、31歳でようやく拠点ができたわけです」。
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