ロンドン留学を目指していたはずが、路上の絵描きに
長坂さんは1984年生まれ。福井県の工業高校を卒業後、ファッション界へ多くの才能を輩出している名門・文化服装学院へ進学し、モノづくりの面白さに目覚めた。
しかし、卒業直前にロンドン留学を狙って応募したコンテストで辛くも落選。「どうしてもロンドンに行ってやる」と、卒業後には留学費用を稼ぐために新宿・歌舞伎町でホストとなり、ナンバーワンに。
2年弱で辞めたときには留学費用以上の貯金ができていたため、それならばと、アパレル会社を設立した。ところが1年であえなく倒産する。
波乱万丈という言葉がこれほど似合う経歴はないだろう。借金を背負った24歳の長坂さんは、窮地の中でもモノづくりを志す。絵描きを生業とすることを決意したのだ。
「もともと絵を描くのが好きで、専門学校のときにもよく描いていたし、その当時、絵本作家になりたいなぁ、と思って出版社へプレゼンしに行ったこともあります」。
そして、日本中あちこちを移動しながら路上で絵を描き始めた。女性のポートレートが中心だった。
その創作活動はじきに評判を呼び、2010年には地元・福井県の博物館から仕事のオファーを受けたり、音楽フェス「サマーソニック」でのアートイベント「ソニックアート」への出場を勝ち取るなど、数々のチャンスをモノにしてきた。
そう聞くと、とんとん拍子にキャリアを積んできたように聞こえるが……。
「いや、全然だめです。仕事なんて数カ月に1個あるかないか。家なんて借りる余裕ないから、当時付き合っていた彼女や友達の家を転々としていました。どんなにお金がなくても、ナンバーワンホストだった経験があるから、地道にコンビニのバイトを始めるなんて意地でもできなかった」。
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