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奇跡的に回ってくれたエンジン

その日もマウンテンバイクを楽しもうと、西伊豆のオフロードコースまで出かけた。

その帰り道の山の中、伊豆スカイラインを走行中にエンジンが突然ストールして減速しはじめたのだ。慌てて車をとめ、キーを回してみるがうんともすんとも言わない。

「ハーネスがショートして、オルタネーターが動かなくなっちゃったようなんです」。すぐにどこでショートしているのか愛車をくまなく調べるが、目に見えるところにその症状はない。

「見える所なら何とかできたかもしれませんが、裏のほうでショートしてしまったらしく、お手上げでした」。

年式相応のサビもそこかしこに。それもまた味になっている。


その後幾度かキーをひねってみたが、何も起こらない。しばらく呆然としたという。「たぶん10分くらいはボーッとしてました」。1月の伊豆の山中はかなり寒い。しかも日も暮れて辺りは真っ暗だ。車は一台も通らない。

「ダメもとで、かかってくれと願いながらもう一度だけキーをひねってみたんですよ」。すると、セルモーターが回ってエンジンがかかった。

「え、そんなハズは……」と、かかってほしいという気持ちとは裏腹にビックリしたが、実際エンジンは目の前で音をたてて回っているのだ。不思議がっている場合ではなかった。慌てて車を走らせ、伊豆スカイラインの料金所までたどり着くと、青いボルボはそれを見届けたとでもいうように、再びストールして、静かになった。

「結局、料金所の人に状況を説明して、暖をとらせてもらいながら修理工場のキャリアカーを待つことができました」。

きっと最後の力を振り絞って、ご主人を人のいる場所まで送り届けてようとしてくれたのだろう、と赤池さんは振り返る。こうなるともう、簡単には手放せない。

キャリアにマウンテンバイクを積んで各地のオフロードコースへ。遠いところでは長野の白馬まで走る。


その後愛車はボルボに詳しい修理工場に預け、すべてのハーネスを新調した。「おかげで今は絶好調」だという。

絶好調の青い240なら、欲しがる人がたくさんいそうですねと言うと「ファッションでボルボが欲しいという人には、譲れないです」。

そもそも自ら修理するほど手塩をかけてきた愛車だ。しかも伊豆の山中での恩義もある。「万が一譲るとしても、僕と同じかそれ以上に手をかけてくれる人じゃないと」。

そうは言っても葉山の狭い道には大きすぎるし、「修理に出している間に乗った国産車のほうが何も気にせず乗れるからめちゃくちゃ便利ですけどね」と笑う赤池さん。

けれど、青いボルボとは常に対話がある。エンジン音やステアリング、アクセルペダルなどの感触から「そろそろ踏んでもいいかな?」と話しかけられる相棒と、もうしばらく付き合っていくようだ。



鳥居健次郎=写真 籠島康弘=取材・文

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