すべての原点は、子供時代の思い出
そんなコンセプトのもと、2019年11月にオープンしたのが「ALLWRIGHT -sake place-(オールライト)」だ。それにともない「ビアウォーズトーキョー」は2019年9月にクローズした。
オールライトの開店から7カ月経った2020年6月には、無事に「その他の醸造酒免許」を取得し、併設のマイクロブルワリー「木花之醸造所」が醸造を開始。満を持して、自家製のどぶろく「ハナグモリ」を世に送り出した。
ただ、残念ながら2020年夏の東京五輪は延期された。堀木さんが夢見た光景はしばらくおあずけとなったが、その間にも本人はまた新しいビジョンを思い描き、動き出している。
「実は2020年の2月くらいから、昼間の空き時間を使ってリハビリの仕事に復帰したんです。対象は、自閉症や発達障害の子供たち。遊びや活動を通して彼らの抱えている問題を把握し、適切な対応方法の検討をするなどして自立支援をサポートしています」。
なんと、作業療法士の仕事も始めたのだという。でも、なぜ今復帰したのだろうか。
「子供のケアに関わりたいという気持ちは昔からずっとあったんです。作業療法士時代に高齢者のリハビリをして気づいたのは、どんなに長生きしている人でも、障害がなくても、自分の人生に不満ばっかり言う人も少なくないということ。
逆に、若くして病気になってしまっても、障害があっても、周囲の環境や人との関係性次第で幸せな人生が送れる。そのために、もし子供の時点で問題を抱えている子がいたら、なんとかして助けてあげたい。作業療法士がプロとして関わっていくべきだと思っていて。
ずっとやりたいと思っていたことだけれど、飲食店が軌道に乗り、自分が40歳になったのをきっかけに始めた感じですかね」。
ものづくりを通じたリハビリで困っている人を助けたくて作業療法士になり、車椅子の人が行ける場所を増やすために飲食店のオーナーになった堀木さん。
彼にとっては、作業療法士も飲食も、やりたいことをやるための手段にすぎない。その信念を支えるのは、子供の頃に一緒にバスケをした障害児や、全盲だった祖母との思い出だ。
原点に立ち返った今、40代の10年は子供のケアに注力していくつもりだという。
「とはいえ、これまでもやる気を出して突き進むというより、やりたいことの画を描いたら、あとは自然に身を任せて、流れに逆らわずにやってきただけなので。
今後も作業療法士とか飲食店オーナーといった肩書にはこだわらず、自分にしかできないことをやっていくつもりです」。
堀木慎太郎(ほりきしんたろう)●1980年、東京都生まれ。高校卒業後、リハビリの専門学校に進学し、作業療法士の国家資格を取得。病院や老人保健施設で身体や精神に障害のある人のサポートに従事し、32歳で退職。3年間飲食店で勤務したのち、2015年、東京・馬喰横山にクラフトビールと炭火焼き料理の店「BEER WARS TOKYO」をオープン。2019年には浅草に「ALLWRIGHT -sake place-」および併設のマイクロブルワリー「木花之醸造所」をオープンした。
「37.5歳の人生スナップ」もうすぐ人生の折り返し地点、自分なりに踠いて生き抜いてきた。しかし、このままでいいのかと立ち止まりたくなることもある。この連載は、ユニークなライフスタイルを選んだ、男たちを描くルポルタージュ。鬱屈した思いを抱えているなら、彼らの生活・考えを覗いてみてほしい。生き方のヒントが見つかるはずだ。
上に戻る 岸良ゆか=取材・文 中山文子=写真