OCEANS

SHARE

「誰ひとり排除しない」という環境整備

「環境整備」の次のステップについて考えていたある日、現在のビジネスパートナーと出会った。
日本有数の観光地である浅草に、新しい店をつくる。次の店ではクラフトビールではなく、どぶろくを提供する。話をしているうちに、アイデアがどんどん膨らんでいった。
「その頃、クラフトビールやクラフトジンのマイクロブルワリーがあちこちに誕生していましたが、どぶろくのマイクロブルワリーは都内に2軒しかなかった。それなら醸造所を備えて、自分たちで酒を造れば面白いよね、ということになって」。
オールライトに併設されたどぶろく作りの醸造所。
オールライトに併設されたどぶろく作りの醸造所。
日本酒を製造するには清酒製造免許が必要になるが、新規参入者が清酒の免許を取得するのは難しい。しかし、米や米こうじを発酵させた酒を「濾過しない」どぶろくは、酒税法上「その他の醸造酒」に分類され、こちらは比較的免許を取りやすい。
酒造りに関しては、秋田の新政酒造で働いていた若手ながら実力のある蔵人に一任することにした。「若い人の挑戦をバックアップできる場所にしたい」という狙いもあったという。
そんなふうに店のコンセプトや酒造りについて熱く語ってくれる堀木さんだが、「環境整備」はどうなったのだろうか。
「もちろん次の店もバリアフリー仕様にしようと決めていました。だけど、べつに車椅子の人に向かって『来てくださいね』って特別にアピールするつもりはなかったんですよ。
目指すのは、旨い酒が飲めて、おいしい料理が食べられて、かつ酒造りも見れますよ、という空間。あらゆる人に開放されていて、車椅子の人を含めて、誰ひとり排除しない。自分の考える理想的な『環境整備』のあり方ってそういうことなんじゃないかと」。
新しい店を構想している最中、堀木さんには頭のなかで思い描く理想の光景があった。
「当時は、東京五輪まであと2年というタイミング。オリンピックやパラリンピックを見に世界中からやってきた老若男女が、国籍や障害の有無に関わらず、みんな一緒になって楽しい時間を過ごしている。そんな光景が見れたら、いつ死んでもいいやと思っていたくらい(笑)」。



4/4

次の記事を読み込んでいます。