2008年、江戸時代から続く長い歴史に幕を下ろした白井屋旅館。明治から昭和にかけては、旧宮内庁御用達として愛され、かの文豪・森鴎外も訪れたという。
そんな超老舗が、創業の地・群馬県前橋にて“粋なアートホテル”として蘇った。
まずは、この外観を見てほしい。
「ここは現代アートの美術館です」と言わんばかりにエッジの効いたデザイン。旧白井屋の建物を大幅にリノベーションした、ヘリテージタワーである。
この建物を抜けると、もうひとつのタワーが出現!
アニメの世界が現実に飛び出してきたかのような状況だが、ここはグリーンタワーと呼ばれ、前橋市に流れる利根川の旧河川の土手をイメージして創られた。
この2つのタワーを含む、全体の設計を担当したのが建築家の藤本壮介氏だ。
藤本氏は、空間と身体の関係性に着目したアイコニックな建築を得意とし、2019年に竣工したフランスのレジデンシャルタワーや、今夏横浜にオープンしたユニクロパークなど、国内外のさまざまなプロジェクトを手掛けている。
次はホテルの内部を覗いてみよう。
ホテルを入ってすぐ、フロントの背後で我々を待ち受けるのは、日本アート界の巨匠・杉本博司氏の作品だ。ライトやインテリアの雰囲気と相まって、威風堂々たる佇まいを見せている。
ヘリテージタワーは4階まで吹き抜けになっていて、剥き出しの細長いパイプがフロア全体を照らす。
実は、このパイプもレアンドロ・エルリッヒ氏という現代美術家によるもの。森美術館や金沢21世紀美術館で大規模な個展を開催した超実力派だ。
そして、ホテル最大の目玉が、4人のスタークリエイターが手掛ける“スペシャルルーム”。それぞれの作家が、ひとつの客室を作品のように見立てて内装設計を一貫して行っている。
例えば、上の写真の部屋はプロダクトデザイン界の名将、ジャスパー・モリソン氏がデザイン。
自身が唱える「スーパーノーマル」という思想を落とし込み、無駄な装飾は省きながらも、丸みを帯びたシェイプだったり、全体のインテリアを木材で統一したりと温もりある空間に仕上げた。
こちらは、藤本壮介ルーム。シックでミニマルなインテリアのなかで、ひょっこり顔を出す植物は「めぶく。」をイメージしているという。
そのほかにも、レアンドロ・エルリッヒ氏による水道管を張り巡らせた部屋や、イタリアを代表する建築家、ミケーレ・デ・ルッキ氏による「板葺き」という伝統的なテクニックを用いた部屋がある。
驚きに満ちた食体験も魅力のひとつだ。メインダイニングである「the RESTAURANT」は、ミシュランガイド東京で2つ星を獲得した青山のフレンチレストラン「フロリレージュ」の川手寛康氏が監修。
地元の大自然で育まれた食材を使用し、芸術の域まで高めた料理にきっと頬が落ちることだろう。
ここでは語り尽くせなかったが、宮島達男氏や武田鉄平氏、さらにはイギリス出身のライアン・ガンダー氏といった今をときめく作家のアート作品を鑑賞できるほか、フィンランド式サウナやミストサウナなども完備。
新たに生まれ変わった白井屋ホテル、五感を総動員させて心ゆくまで堪能しよう。
[施設概要]
白井屋ホテル住所:群馬県前橋市本町2-2-15電話:027-231-4618www.shiroiya.com/