有香さんは藤沢市で生まれ、その後、東京の新大久保に引っ越してきた。
「家が好きすぎて、学校の往復以外はほとんど外に出なかったんですよ。中学生のときにディズニーチャンネルの『ハイスクール・ミュージカル』に出合ったのを機にミュージカル映画にハマって、ますますインドア派になりました(笑)」。
初バイトは大学1年生。家から離れたくないという思いから、近所のコンビニで働いた。
「のどかな職場でした。絶対に私のレジに並ぼうとする常連のおじいちゃんがいて、微笑ましかったです」。
現在の仕事に就くきっかけは大学2年生のときに友達と訪れた式根島だった。
「東京都なのに自然が豊かというところに衝撃を受けたんです。海中温泉も貸し切り状態で最高。一方で、こんなに素敵な場所なのに観光客がほとんどいないのが不思議でした」。
以降、いくつかの離島を訪れ、卒論のテーマを「離島の地域活性」とする。同時に、就活では星野リゾートの“日本の観光をヤバくする”という企業理念に“ピーンと来て”絶対ここに就職すると決めた。
晴れて採用。最初に配属されたのは長野県松本市は浅間温泉にオープンした「星野リゾート 界 松本」。
新卒1年目の終わり頃、「魅力担当」に任命された有香さんはトリッキーな企画を提案する。その名も夏場の「寒天美人滞在」プラン。寒天の生産量が日本一の長野県にちなんで、足湯の代わりに“寒天水”で涼んでもらおうというものだ。
第二の故郷となった松本では5年間勤務。今も松本への訪問を「松本に帰る」と表現する。そして、昨年4月からここ大塚に異動した。
「松本は30代以上の落ち着いたお客様がメインでしたが、大塚は20代前半の若い方や、時期によっては外国人のお客様が本当に多いです。さらに、フロントやカフェサービス以外にもレンジャーやDJなど、お客様とがっちり話す機会も増えました」。
え、DJ?
DJネームは「HIMAWARI」。これは昨年9月から始まった企画で、ホテルのスタッフがDJとなり、“昭和レトロ”な大塚の街を盛り上げようという試みだ。
これっきりですか? これっきりではなかった。スタッフ一同でディスクユニオンの昭和歌謡館を訪れ、200枚以上のレコードを購入しているのだ。さらに、プロのDJからトレーニングを受けるという気合の入れよう。
栗原さんは松本時代の先輩でもある。
「松本もそうですし、有香さんはその土地に注ぐ愛情がすごいと思います。街のいいところを見つけて発信する才能に長けていますね」。
大塚でもポップな企画を提案している。下の写真は子供たちに大人気、無料の「アマビエサンタガチャ」だ。
疫病退散の願いを込めて大塚にやってきたアマビエサンタ。缶バッジが出たら“当たり”とのこと。
カフェフロアにはグッズ販売コーナーもあった。熱狂的な星野リゾートファンには「トラベラーズノートブック」が人気だ。
DJ HIMAWARIが付けていた星野リゾートオリジナルマスクも購入できる。
池袋の隣駅というイメージしかなかった大塚だが、話を聞いているうちにその魅力がどんどん伝わってきた。旅行気分で街をそぞろ歩くのもいいかもしれない。
というわけで、お会計。
「帰る」場所が家だった有香さん。それが松本になり、今後は大塚になるのだろう。読者へのメッセージもお願いしますね。
【取材協力】星野リゾート OMOカフェ住所:東京都豊島区北大塚2-26-1 ba01 4F電話番号:03-5961-4131https://omo-hotels.com/otsuka/omocafe/「看板娘という名の愉悦」Vol.131好きな酒を置いている。食事がことごとく美味しい。雰囲気が良くて落ち着く。行きつけの飲み屋を決める理由はさまざま。しかし、なかには店で働く「看板娘」目当てに通い詰めるパターンもある。もともと、当連載は酒を通して人を探求するドキュメンタリー。店主のセンスも色濃く反映される「看板娘」は、探求対象としてピッタリかもしれない。
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石原たきび=取材・文