アストンマーティン初のSUVとなるDBX。「現代版のシューティングブレークである」との意見を多く聞くが、その真相やいかに。
ASTON MARTIN DBX アストンマーティン DBX
最低地上高が190mmとSUVとしてはそこまで高くないため乗り降りも楽で、クルージングを得意をするブランドらしい造りである。荷室容量は通常時で632L。全長5039×全幅1998×全高1680mm 2299万5000円〜。
シューティングブレークの現代的解釈
レコード会社に就職したつもりで入ったヴァージンでなぜか航空部門に配属され(笑)、以来約30年、公私にわたって英国とのディープな付き合いが続いています。
「英国らしさ」って何なのか——と考えると、それは「わかりづらさ」なんだと思います。買おうと思えばどこでも買える紺のブレザーを、わざわざビスポークするみたいな。アメリカ人からすると「なぜそれを!?」と聞きたくなる、わかりづらいこだわりが、いわゆる英国らしさなんだと思います。
そういった意味でアストンマーティンのDBXは、まさに英国車だと思います。超アッパークラスの車であることは間違いないのに、ほかの競合ブランドのように押し出し感はあえて少なめにしている。そういった知的で上品な部分がアストンマーティンの魅力であり、逆に知的で上品な人間じゃないと、アストンは似合いませんよね。
DBXが似合う人といえば、イメージとしては「カントリージェントルマン」でしょうか。休日は家族サービスとして遊園地へ……みたいな感じではなく、シューティングブレーク(英国でのステーションワゴンの呼び名。もともとは狩猟用のワゴンを意味した)に乗って野山を駆け、そしてまた都会に戻ってキリッと働くみたいなね。
そう考えるとDBXは、SUVというよりも「かつて英国貴族が乗っていたシューティングブレークの現代的解釈」なのかもしれませんね。
| BLBG代表取締役 CEO 田窪寿保 英国ブランドを取り扱うヴァルカナイズ・ロンドンやザ・プレイハウスを展開するBLBG(ブリティッシュ・ラグジュアリーブランド・グループ)の代表。ヴィンテージロータスを複数台所有する。 |
SUVの差別化は機能でなく佇まいで
ミニバンのようなピープルムーバーが強い日本でも3割近く、世界的に見ると今や新車販売の約4割以上はSUVと言われる今日この頃です。高いアイポイントによる見晴らしの良さ、ステーションワゴンと同等の使い勝手に加えて、いざとなれば8人乗れるモデルも用意されており……と、車に求めるニーズをあらかた満たしてくれるわけですから売れて当然、そしてハイブランドも参入を検討するのは自然な流れでしょう。
ましてやアストンマーティンには直近のラインナップにラピードという4ドアサルーンがあったくらいです。その既納客の受け皿としても、新たな顧客の獲得としても、DBXはあるべくして企てられたものといえます。
とはいえ、です。仮に走りの面では独自性は打ち出せたとしても機能の面ではもはや差別化は難しい。というわけで市場ではほかの数多のブランドのそれと相まみえることになるわけで、それだけにスタティックでも、どこまでブランドのらしさをバシッと圧をもって伝えられるかが勝負になってきます。
だからウルスやカリナンがそうであるように、DBXもまたアストンのテイストをゴリゴリにアピールしまくった内外装に仕上がっているわけですね。特に内装の凝りっぷりはヴァンテージやDB11あたりとは一線を画するもの。
実は間が悪く、現物は見たことはあれどまだ乗れていないのですが、多分走りもスポーツカーばりにキレてることでしょう。
| 自動車ライター 渡辺敏史 出版社で自動車/バイク雑誌の編集に携わったあと、独立。自動車誌での執筆量が非常に多いジャーナリストのひとり。車の評価基準は、市井の人の暮らしにとって、いいものかどうか。 |
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