私のキャンプは、いたってシンプルです。どちらかといえば、「野営」に近い(笑)。グランピング(「グラマラス」と「キャンピング」を掛け合わせた造語。オーナーロッジタイプのテントで豪華な食事を楽しむリゾートスタイルのキャンプ)のような優雅さとは真逆です。
荷物も最小限で最低限。山行中の動きやすさを考えると、荷物は少ないほうがいいので、快適さを多少犠牲にすることになっても構わない。テントさえ持たずに、タープ(日差しや雨を防ぐ広い布)だけで寝ることもあります。
タープは軽量であるだけでなく、テントと違って底がないので不整地でも設営でき、その場に合わせた張り方ができます。岩がゴロゴロした河原にタープを張って、岩の間で寝る。多少眠りづらくても、テントのように四方を囲まれていないので、自然をダイレクトに感じることができます。
私の場合、キャンプに豪華さを求めてはいません。なぜなら、キャンプそのものが目的ではないからです。
私にとってキャンプは、目的を達成するための手段です。カヌーで川下りをする。山道を散策する。写真を撮る。自転車に乗る……。キャンプそのものが目的ではなく、アクティビティを楽しむための宿泊手段がキャンプです。ですからキャンプは、シンプルなスタイルを好みます。
仮に、「キャンプ」や「バーベキュー」だけが目的なのであれば、庭先や河原でも、楽しむことができます。
5分間ひと言もしゃべらない
以前、21日間の行程でグランドキャニオン(谷底を流れるコロラド川)を下ったことがあります。参加メンバーは20名。キャンプサイトはもちろん行動中も楽しい話題が尽きませんでした。ゴールを目前に控えた旅の終わりに、ガイドが、次のような提案をしました。
「今から5分間、ひと言もしゃべらずに、自然を感じてみませんか?」。
私たちは会話に夢中になっていて、自然の音に耳を傾けることを忘れていたのです。全員が沈黙したとたん、自然の音が聞こえてきました。
人の声も人工的な音もなく、聞こえてくるのは川の音、風の音、鳥のさえずり……。自然と1対1で向き合う時間でした。
この経験をしてから、私が案内するエコツアーでも、「沈黙の時間」を持つようにしました。
ツアーの最終日に、参加者が距離をあけて草原に座り、空を見上げ山を眺めながら、旅を振り返ってもらうことにしました。5分間、声を出さず、自然と対話してもらいます。感動のあまり涙を流す参加者もいました。
キャンプ場でカラオケをしてもいい。音楽を聴くのもいい。ですが、せっかく自然の中にいるのですから、日常的な音や音楽で耳をふさいでしまうのは、もったいない。
言葉も音楽もない「沈黙の世界」にも、自然の音があります。「sound of silence」に耳を傾けてはいかがでしょう。
辰野 勇:モンベル創業者
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