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高校では演劇部に入りたいと思うようになる。しかも、師事したい顧問の先生も見つけた。
「高校演劇界では有名な土田峰人先生です。希望通り、土田先生がいる高校に受かって演劇部に入部しました。絶対に妥協せず、部員たちと全力で作品を作り上げてくれる人でしたね」。
全国高等学校総合文化祭で演劇部を文化庁長官賞に導いた土田先生。
部員たちとは野田市内にある清水公園に毎年行っていた。難易度の高いアスレチックがあり、テレビのロケでも良く使われるそうだ。
清水公園で「ユッフォー」(写真右がマユさん)。
演劇部については面白いエピソードがある。
高3の秋、全国大会を目指すラストチャンスとなる舞台で土田先生が選んだ演目は『楢山節考』。深沢七郎の短編小説で、年老いた母親を背板に乗せて真冬の山に捨てにゆくーーいわゆる「子や孫を想う母が繋ぐ命の物語」だ。
「脚色するにあたっては原作の著作権者の許可が必要なんです。土田先生によれば、山梨県でお蕎麦屋さんをやっていらっしゃる親族の方が持っているとのことでした」。
ここで土田先生が動くと思いきや、「僕は大道具の合宿に同行するから、それ以外の組で行って許可をもらってきて」と言う。部員たちは夏休みの小旅行気分で山梨に向かった。
「結果的には『使用許可をいただきたいんですが』『あ、いいよ。わざわざ来なくてもよかったのに』という肩透かしな感じでした。緊張しまくっていたので、お蕎麦の味は覚えていません(笑)」。
ホッとして店の前で記念撮影。
マユさんに与えられたのは主役の「おりん」。捨てられる老母を演じ切った。
高校演劇とは思えない白熱する終盤。
「舞台上であっという間に死装束に変わるので、すぐに脱げるようにこの衣装はスナップボタンで留めてあります。衣装に関しては祖母にかなり相談して、一緒に作業しました。今思えば素敵なコミュニケーションのひとときだったなあと思います」。
そして、アイドルの道へ。
本人も「いつの写真かは忘れました!」というステージ。
アイドルを辞めたあとは放心状態。先が見えないなかで、演劇部時代の先輩女性に相談した。
「『とりあえず、工場とかで働きながら地道に貯金していこうと思います』と言ったら、『あんた、バカじゃないの。それはもったいないよ』と」。
演劇部やアイドル時代を見ていてくれた人だからこその叱咤だ。そのあとに先輩が言ったひと言が現在のマユさんを形作る。
「人前に出る仕事なら何でもいいんだよ。例えばバーテンダーとかさ」。
そこから導かれるように柏市内の「Mar’s BAR」で働き始めた。
「弟が成人したからお店に呼んだんですよ。彼が注文したのが『ラフロイグ 10年のロック』。美味しそうに飲んでるから、ちょっともらったら感動してしまって。そこからは店にあるウイスキーを全部調べて特徴を覚えました」。
やがて、縁あってここ中野新橋のバー、「星屑と三日月」の扉を開ける。
駅前のバーのマスターにもらったTシャツ。
店長の畝沖修司さん(36歳)は「働きたい」と言ってきたマユさんの第一印象をはっきりと覚えている。
「パッと見て華があるなと思いました。その次に酒の話になったんですが、酒への愛があるなと。実際に働いてもらったら早い段階で原価の話を投げて来たりと、お店を運営する立場から物事を考えているんです。それは彼女がエンターテインメントの世界で表現してきた経験があるからだと思います」。
照れて高速でツッコむマユさん。
自粛期間中に撒いたテイクアウトのチラシではマユさんのイラストが活躍した。
毎月スタッフの手で描かれるイベントカレンダーにも同じイラストがあしらわれている。
ちなみに、「ザリガニパーティー」とは毎月月末に開催されている「スウェディッシュナイト」というイベントの派生で生まれた、北海道産のザリガニを取り寄せて行うフードイベント。スウェーデンでは夏の風物詩で、大使館の関係者も来てくれたそうだ。
ふと横を見ると、常連の男性客がマユさんと楽しそうに話している。
「かわいいし、やさしいし、面白い。あ、お笑いが好きなんだよね。誰のファンだっけ? 『東京ダイナマイト』か」。
「僕はジャルジャルとかかな」と男性客。
もう一人の男性がカウンターで飲んでいた。聞けば約3年ぶりにこの店を訪れたという。「話すの緊張するわー」と言いながらマユさんの印象を教えてくれた。
「もちろん初対面ですが、オーラ的なものを感じました。お洒落な常連さんかと思ったら店員さんだったんですね」。
あまり目を合わせないスタイル。
さて、華もオーラもあるマユさんは今年のハロウィンイベントに並々ならぬ意欲を燃やしている。
「めちゃめちゃ気合いを入れますよ。アリスとかミリタリーっぽいのとかの仮装をしたいです。しっかりメイクをして、ファンの方から頂いたウィッグもかぶって」。
そんなマユさんがうんうん唸りながらたっぷり30分以上かけて読者へのメッセージを書いてくれました。
「漫画チックな大きな目」を貫いて正解でしたね。
【取材協力】
星屑と三日月
住所:東京都中野区弥生町2-32-16 ロックフォード第3ビル中野新橋B1
電話番号:03-6312-9899
https://twitter.com/hkztomdk
https://twitter.com/Negishimayu

「看板娘という名の愉悦」Vol.124
好きな酒を置いている。食事がことごとく美味しい。雰囲気が良くて落ち着く。行きつけの飲み屋を決める理由はさまざま。しかし、なかには店で働く「看板娘」目当てに通い詰めるパターンもある。もともと、当連載は酒を通して人を探求するドキュメンタリー。店主のセンスも色濃く反映される「看板娘」は、探求対象としてピッタリかもしれない。
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石原たきび=取材・文

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