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2020.10.14

時計

ブラック×ゴールドが男の魅力を引き出す「チューダー」のダブルフェイス時計

「腕時計と男の物語」とは……
工房に持ち込まれた一枚の絵は、古い裸婦像だった。絵の具は剥落し、亀裂や欠損がおびただしい。ところによってはカビさえもうかがえる。
「画家だった祖父のアトリエにしまい込まれていた絵なんです。修復できませんか?」と依頼人の女性は言った。
「少し時間をいただけますか」。不安げな彼女の表情は変わらなかったが、それでも望みをつないだのかもしれない。絵画の修復は、日本ではまだ一般的ではなく、手をかけられることなく朽ちていく作品も多い。
改めてその絵に向き合った。ニスは固着し、全体が黄変している。初見以上に状態は良くない。
修復というと色を塗り直すように思われることも多いが、それは間違いだ。基本的に修復家がオリジナルの上に新たな色を載せることはなく、むしろ邪魔なものを取り除く作業に近い。そして、ときには損傷そのものを活かすこともある。それもこれまで重ねてきた時の堆積であり、画家の思いだからだ。
チューダー「ブラックベイ クロノ S&G」
腕時計68万9000円/チューダー(日本ロレックス / チューダー 03-3216-5671)、スウェット3万4000円/アスペジ(トヨダトレーディング プレスルーム 03-5350-5567)
拡大鏡の付いた作業眼鏡をかけ、光を当てながら作業を進めていく。そんな作品と対峙する濃厚な時を刻むのが腕元のチューダー「ブラックベイ クロノ S&G」だ。
黒文字盤にゴールドのアクセントが映える。見やすい2カウンターのクロノグラフは、際限なく続く作業のタイムキーパーとなり、ユニークな45分積算も集中力を維持し、根を詰めた作業にひと区切りをつけるにもいい。
何よりも気に入っているのはコンビのカラーリングだ。さりげなく入ったゴールドは、まるで金継ぎを思わせ、補修の跡を芸術へと昇華させた美学は修復の矜持にも通じるのだ。
数カ月後、修復を終えた絵を見た瞬間、彼女は驚きのなかにもどこか安堵したような表情を見せた。
「実は絵のモデルは祖母なんです」。
美大生だった祖父は恋人を描き、やがて二人は結婚した。だが絵に没頭するあまり家庭を顧みず、病弱だった妻は彼女の母を生み、亡くなったそうだ。
「母はそんな祖父を嫌い、疎遠になったのですが、私には祖父がひどい人には思えなかった。むしろ晩年は慟哭が伝わってくるようでした」。老画家がなぜ深い悲しみを自分だけの胸に秘めたかはわからない。「でも今確信しました。祖母は間違いなく愛されていたのだと」。
そのとき、裸婦像に込められた若き画家の恋心は絵とともに甦り、描かれた頃以上に輝いて見えたのだった。


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