生地に描かれたいくつもの部位が立ち上がり、一着のジャケットが生まれる。デジタルを駆使したプレゼンテーションが表現する服の原点。そこにデザイナーの思いがこもる。
「作りたかったのは自分の着たい服」
ファッションは時代を映す鏡といわれる。だがいつからだろう。どこか曇りが感じられるようになったのは。流行のサイクルはより短くなり、“映え”に消費される。さらに社会的な問題も顕在化してきた。そこへ否応なく新型コロナウイルスは襲来した。
「でもこれをコロナ禍と考えるか、業界の慣例が変わる潮目と捉えるかの違いだと思うんですよ」とファッションデザイナーの相澤陽介さんは言う。
「僕はポジティブに考え、これまではコレクションでの発表を前提に服を作ってきましたが、それとは違う発想でやらざるを得ない。そこで服作りとは何だろうというところからスタートしました」。
原点に立ち返ったとき、作ろうと思ったのは43歳の今の自分が着たい服だった。
「普段着ている黒を選んだのもそうだし、今回ラペルドジャケットを作ったのも僕自身がそういう服を着る機会が増えたからです。目を引くデザインよりもパターンにこだわり、着やすさを追求しました。
また通常は春夏のコレクション時季にあえて秋冬を発表し、すぐに店頭に並べる。今着たい服ということで、シーズンという考え方も壊したかったんです」。
そして発表の場もショーではなくウェブのみに。
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