「ホンダe」をつくった3つの考え方
開発の柱は主に3つ。
①ちょっと先の未来
②街なかベスト
③徹底したこだわり
①ちょっと先の未来冒頭のゲーム機やリモート会議の話は①の一例だ。「ホンダe」は12.3インチのスクリーンを2画面並べた「ワイドスクリーンHonda CONNECT ディスプレー」をインパネに備えた。
HDMI端子も備わるので大画面でゲーム機が使えるし、映画も観れる。車内で楽しめるアプリも用意されている。運転席側と助手席側でそれぞれが表示を入れ替えられるので、例えば助手席の人がナビの設定をしてあげて、その画面を運転席側に移す、という操作も可能だ。
国産量産車では初となるクラウドAIを使った音声認識機能「Honda パーソナルアシスタント」も、「OK、Honda」と呼びかけて話しかければ、スイッチ操作などしなくても「ホンダe」があれこれやってくれる。
昨今の環境問題を考えれば、例えば2030年は主流が電気自動車だろうし、スマホを持って乗り込むだけでパワーオン(いわゆるエンジン始動)できるのも、家で充電しているとき(プラグイン状態)にスマホから「ホンダe」のエアコンを始動できるのも、10年後には当たり前の機能かもしれない。
②街なかベスト
「ホンダe」が描く未来は、100年後ではなくもうすぐやってくる未来。環境問題の解決を進めるためには、まずは人や車が密集する都市部から電気自動車を利用するべきだ、ということから生まれたのが「街なかベスト」。
街中を動き回るモビリティなら、小回りが効くことはマスト。だから「ホンダe」は最小回転半径4.3mを実現した。これ、現在新車で販売されているほぼすべての軽自動車よりも小さな回転半径だ。
そして「ホンダe」の全幅は1750mm。この数字だけを見ると小型車の5ナンバーサイズを超えているが、「ホンダe」はドアミラーがカメラになっているから、実際の幅も1750mmポッキリ。
一方物理的なドアミラーを使う車は、全幅が1700mmと5ナンバーサイズに収まっていても、ドアミラーの幅まで入れたら1700mmを超える車はいくつもある。ドアミラーを畳んでも、ボディ幅(つまり全幅)を超えるものも多い。
搭載されるバッテリーの総電力は35.5kWh。満充電の航続可能距離は標準モデルで283km(WLTCモード)/308km(JC08モード)、もうひとつのグレード「アドバンス」は259km(WLTCモード)/274km(JC08モード)。
ホンダの調べによると「1日の走行距離は90km以内という人が9割」。なので、283km(WLTCモード)/308km(JC08モード)もあれば、街使いには十分ということだ。
③徹底したこだわりこの「こだわり」には2つある。ひとつはホンダらしい“走り”。F1にも参戦中で、以前から走りを追求したモデルを数多く販売してきた同社に対して「スポーティさ」を求める人も多いはず。
先述の最小回転半径4.3mを実現するために、「ホンダe」はRR(リアモーター・リアドライブ)を採用。同じRRのポルシェ「911」がフロントにトランクを備えていることを知っている人も多いだろうが、RRはそれだけフロント部に余裕が生まれる。
だからタイヤを大きく切り込めるというわけだが、同時に前後重量配分50:50というスポーツカーの黄金律になるよう機器類を配置できた。
加えて、バッテリーをボディ中央の床下に収納。低重心かつ、重量の中心がボディの真ん中にあるから、コーナリング時に左右に振られることも抑えられる。ってことでハンドリングが超スムーズ。
しかも、曲がりやすいから足回りをガチガチに固める必要がない。よって乗り心地もいい。RRを採用したおかげで ・小回りが利く ・コーナリングがスムーズ ・乗り心地がいい、という3つの果実を得た。
もうひとつのこだわりは、徹底的に議論するというホンダの文化。「街なかベスト」や「ちょっと先の未来」というコンセプトにしても、今回備わった機能やサイズにしても、すべて議論を尽くしたうえの結論。つまり徹底したこだわりの産物ってわけ。
そのほか衝突被害軽減ブレーキを含む先進の安全運転支援システムや、ボタンひとつで駐車できる機能など、2020年時点での「最新」や「先進」と呼ばれる機能もたっぷり備わる。
10年後にはきっとこんな暮らしが待っている。それを論文で発表するのではなく、市販車というカタチで示したホンダ。
誰でも買える近未来のコンセプトカーの車両本体価格は451万〜495万円。このサイズの国産車としては高いかもしれない。しかし10年後の“当たり前”を先取る投資と考えれば、決して高くはないだろう。
籠島康弘=文