OCEANS

SHARE

感動しつつ、佳央梨さんの話に戻す。実家の引っ越しに伴い、山梨県大月市の小学校に入学した。そこから中学、高校とバスケ漬けの日々を送る。
「中高時代は、ほぼ休みなしで練習でした。土日は他校に出向いて練習試合。スリーポイントシュートですか? 調子がいい時は10本中7、8本は入ります」。
高校時代はキャプテンとしてチームを牽引した。
「練習はかなりきつかったです。でも、あの頃に経験した厳しさがあるからこそ、大人になっていろんなことに耐えられるようになったと思いますね。顧問の先生たちにも感謝しかありません」。
今でも家では、しょっちゅうバスケットボールを触っているそうだ。
そんな佳央梨さんについて、店長の山口 顕さんはこう賞賛する。
「コミュニケーション能力が高いので、アルバイト全員をまとめるのが上手。僕ら社員とアルバイトの橋渡し役でもありますね」。
バスケ部時代に培ったスキルかもしれない。
一方で、外国人の女性スタッフも言う。
「よく働くし、サボらないのが偉い。あと、わからない日本語を丁寧に教えてくれるので助かります」。
店での立場は佳央梨さんより上だという女性。
ちなみに、佳央梨さんは6人兄弟のいちばん上。これも“人をまとめる”才能を生んだ一因だろう。
高校卒業後は山梨県内の短大へ。栄養士の資格を取るために栄養科に入学した。
「高齢者や保育園児向けなどのテーマがあり、それに沿って献立を決めます。献立を考えること自体は難しくないんですが、栄養価、エネルギー、ビタミンなどの基準数値を埋めるのが大変でしたね」。
グループのメンバーと一緒に作成した献立例。
取材も終盤に近づいてきた。最近楽しかったことを聞くと、こんな写真を見せてくれた。
インスタ映えする1枚。
「福島県いわき市にある『いわき回廊美術館』です。田んぼの景色に飛び込めるブランコがあると聞いて、いとこたちと行きました」。
さて、そろそろ締めよう。そう思って再びメニューに目をやると「ホームランバー」の文字が。
懐かしい……。
「菊正宗」の樽酒(1合400円)と合わせて注文した。
“ネオ酒場”としてはアリなんじゃないか。
創業350年を超える老舗酒造がつくる辛口の日本酒と、昭和30年代に誕生したシンプルなバニラアイス。なんだかワクワク感を味わえる店だ。
この日、6試合行われたプロ野球では計6本のホームランが飛び出した。しかし、こちらは残念ながら“ハズレ”。
佳央梨さんいわく、「ホームラン、私は5回ぐらい見ました」。
「忙しくて話し込む時間はないけど、常連さんから『いつもありがとう』『今日もみんな元気だね』といったひと言をもらえるだけでも嬉しいです」。
最後に読者へのメッセージをお願いしますよ。
皆さんも、ぜひ田町で“ネオ”な酒場を体感してください。
 
【取材協力】
大衆酒場BEETLE 田町
住所:東京都港区芝浦3-1-21 ムスブ田町ステーションタワーS 1F
電話番号:03-6809-6514
https://productoftime.co.jp/business_field/

 
「看板娘という名の愉悦」Vol.117
好きな酒を置いている。食事がことごとく美味しい。雰囲気が良くて落ち着く。行きつけの飲み屋を決める理由はさまざま。しかし、なかには店で働く「看板娘」目当てに通い詰めるパターンもある。もともと、当連載は酒を通して人を探求するドキュメンタリー。店主のセンスも色濃く反映される「看板娘」は、探求対象としてピッタリかもしれない。
上に戻る
連載「看板娘という名の愉悦」をもっと読む
石原たきび=取材・文


SHARE

次の記事を読み込んでいます。