「冒険の歴史が創造する源です」
JOHN LOBB ジョンロブ
世界最高峰のシューズブランド、ジョンロブ初のアーティスティック・ディレクターに、パウラ・ジェルバーゼさんが迎えられたのは2014年のこと。ファッション畑を歩んできた女性が紳士靴の名門を率いるとあって、当時は驚きとともに賛否両論を呼んだ。
しかし結果は、賞賛の嵐。優れた美意識の持ち主であることはもちろん、彼女はブランドの精神を誰よりも深く理解し、大切にする人物だった。今季はウインザー公のオーダーに端を発する元祖ダブルモンク「ウィリアム」に、75周年記念モデルが誕生した。パウラさんは、この靴について次のように熱を込めて語る。
「創業者の息子、ウィリアム・ロブによりつくられたウィリアム(飛行士が履くブーツに着想を得たとされる)は、当時画期的なものでした。よく模倣されますが、勝るものはありません。
これこそ、ジョンロブが1849年に創業して以来、革新の理念に基づき努力を続け、芸術性や技術の天井を押し広げ続けてきたことを証明する完璧なサンプルだと思います。その物語を継承する本作には現代的な丸みを帯びた♯0015ラストを用い、洗練されたフォルムに仕上げました」。
ガンメタリックに輝くバックルも、洗練の印象を後押し。一方でダブルレザーソールは通常よりも半層分厚く、コバも大きく張り出している。品の良さとアウトドアの野性味を破綻なく併せ持つ点も面白い。
「ジョンロブ創業者は、イギリスからオーストラリア、ヨーロッパを巡る旅をしました。アーカイブの靴には、街とともにアウトドアの要素があり、それが現在のコレクションにもインスピレーションを与えています。冒険の歴史が、コレクションを形づくるものになっているのです」。
なるほど、興味深い話である。ところで、靴をデザインするうえで理想とする男性像はあるのだろうか?
「いいえ。アーティストにミュージシャン、建築家、銀行員や弁護士をされている方々……。お客様の多様性こそが、我々ジョンロブ・ファミリーの豊かさだと感じています」。
ファッションのカジュアル化による男性のドレスファッション離れについて見解を聞くと、「個々人が自由に意思を表現できる、メンズファッションを刺激的にする出来事」とパウラさん。洗練と野性味を併せ持ち、ドレスにもカジュアルにも使い勝手がいい今作はまさに、自由にファッションを楽しむ現代の男性にぴったりのシューズといえよう。
| アーティスティック・ディレクター パウラ・ジェルバーゼさん ブラジル生まれ。在学中にサヴィル ロウのテーラー、ハーディ・エイミスにて仕立てを学びキルガーへ。ヘッドデザイナーを務めたのちに、2010年には自らのブランド、1205をスタートする。’14年、現職に抜擢される。 |
鈴木泰之=写真 菊池陽之介=スタイリング 加瀬友重、いくら直幸、秦 大輔=文