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感じ始めた絵画の限界とモニュメントへの希望


「ただ、その頃の僕の作品はグラフィカルでポップだった。アーティストになるには、もっと作品性を高めないといけないと思ったんです」。
浮世絵や日本美術の要素を加えつつ、頭に浮かんでいたのは「サラダボウルみたいな人種の坩堝」だった。ニューヨークで受けたさまざまな経験や感動をパッチワークしていくことで、移ろうアイデンティティを表現する。徐々に松山はその作風を作り上げていった。
ダウンタウンの小さなセレクトショップに作品が展示され、小さな画集を出版した。それが有名なギャラリーの目に留まり、アート・バーゼルへの出品を勧められ、ニューヨークで作品を売ることができるまでになった。
そして2019年9月、松山はついにニューヨークにある伝説の壁「バワリー・ミューラル」に壁画を描くことを実現。高さ約6m、幅約26mの巨大な壁には、これまで、キース・ヘリング、バンクシーなど、世界の名だたるアーティストが壁画を描いてきた。
松山のこの快挙は日本でも大きな話題を呼んだが、一方で、次第に新たな表現に挑戦したいという衝動も感じ始めていた。
「絵って壁に掛けるしかないじゃないですか。立体ならば、さらに自分の強度と個性を出せるんじゃないか。でかい壁画を描いて認められるなら、巨大なモニュメントを作れば目立つはずだって思ったんです」。
もちろん立体をどうやって作るかなんて知らない。
「だったら作ってみればいい。やらなかったら、ここ止まり。結局はやるか、やらないかしかないんです。僕の強みは“画家であること”だと思いました」。
つまり、どういうことか。
「キース・ヘリングの彫刻を見るとね、決して上手とは言えないんですよ(笑)。でも、あそこには彼のチャームさと強さ、一発でわかる爽快感がある。なぜかって考えたときに僕たちは色を知っているからだと気付いた。普通、彫刻には色がない。だから彫刻家は素材にこだわっていく。でも、画家は色や図案でも立体を捉えられる。だったら画家にしかできない立体物を作ろうと決意しました」。


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