2.ブロードアローが示す「イギリス軍」の矜持
17世紀末からイギリス政府によって、政府所有の官給品に刻印された「ブロードアロー」は、イギリス軍の象徴として広く認知されている。
裏蓋のマーキングについては、陸・海・空軍を簡単に判別できる情報が記載されるものが多い。
第二次世界大戦と1950年代以降で内容は大きく変わリ、第二次世界大戦時のイギリス陸軍専用の防水時計「W.W.W. (Waterproof Wrist Watch)」を始め、いくつかのバリエーションがある。
■オメガ イギリス陸軍 W.W.W. ダーティ・ダース第二次世界大戦でイギリス陸軍が使用した防水時計、通称“ダーティ・ダース”。マーキングでも見受けられる「W.W.W.」は、“Waterproof Wrist Watch”の略称である。
こちらは大変人気が高いオメガのモデル。標準的なサイズ感の35mm径のケース、手巻き名機“30mmキャリバー”を搭載と、トータルバランスに秀でている。
3段目の頭文字の「Y」はオメガに与えたれた特別な管理コード。イギリス軍の象徴である「ブロードアロー」は、文字盤、ケースバックの両面の3箇所に入る。
■レマニア イギリス海軍 H.S.9 クロノグラフ シリーズ1レマニアのワンプッシュクロノグラフの初期モデル「シリーズ1」は、イギリス軍が初めて採用したクロノグラフだ。
ケースバックには、必要最低限のマーキングが入る。文字盤にはブランドロゴなども一切入らない。ケースバックの情報から「HS(Hydrographic Survey)」「ブロードアロー」などの刻印から出自を判断できる。
■オメガ イギリス空軍 ウィームス Mk.7A 6B/159第二次世界大戦時にイギリス空軍は、ロンジン、ルクルト、ゼニス、モバード、オメガらのブランドに、「ウィームス」を発注。
秒針を止めるハック機能がなくても、回転ベゼルを秒針に合わせることで時間の経過を秒単位で読むことができる機能は、空軍のミッション全般に適していた。
味のある書体が刻まれた雰囲気抜群のケースバック。「6B」の刻印から空軍のモデルであることがわかる。
この個体は、ロンドンの宝石店「ゴールドスミス&シルバースミス」が仲介に入り、軍に納入された希少種だ。「A.M.」は空軍省(Air Ministry)を表し、のちにモデル名の書き換えが行われている。
■ハミルトン イギリス空軍 ラウンドケース Cal.S75S 後期型「マーク11」と酷似したデザインを持つ、イギリス空軍のパイロットウォッチ。
文字盤には、夜光塗料にトリチウムを使用したことを意味する「T」マークと「ブロードアロー」をプリント。
成熟された時代の時計ゆえ、マーキングも洗練されたレイアウトに。前期と後期があり、1967年から支給された後期は「Cal.S75S」を採用。ケースバックに刻印されたNATOコード「9614045」は、ハック機能を示している。
そこからも当時の最先端を行くモデルであったことが見て取れる。
しっかりとした知識がないと何を表しているのかわからない「マーキング」。しかしそこには知れば知るほど楽しくなるヴィンテージミリタリーウォッチの魅力が詰まっているのだ。
次回はフランス。ドイツ軍のマーキングを見ていこう。
[取材協力]キュリオスキュリオ住所:東京都港区南青山4-26-7 +8ビル 302電話:03-6712-6933営業:15:00~20:00 月・火曜定休https://curious-curio.jp「ミリタリーウォッチ ブートキャンプ」とは……軍用を出自とするミリタリーウォッチは、国や時代、用途などによって驚くほど奥が深い。そんな一朝一夕には語れない世界に飛び込む“新兵”へ向けた短期集中訓練(ブートキャンプ)。
上に戻る ※本文中における素材の略称:SS=ステンレススチール
戸叶庸之=編集・文