ベドウィンのディレクター・渡辺真史さんが訪ねたのは、青山の路地裏に佇むヘアサロン。
そこには世界的に有名で、にもかかわらず「自分の髪型なんてどうでもいい」と言い放つヘアデザイナーがいる。
渡辺 ご無沙汰しています。TAKUさんと初めて出会ったのは16歳の頃だから、もう30年以上も前ですね!
TAKU ベベ(渡辺の愛称)のお姉ちゃん経由で紹介されて、そのあとロンドンでも会ったんだっけ?
渡辺 お会いして、髪を切ってくださいって言ったらきっぱり断られて(笑)。
TAKU ははは。嫌だったんだろうね。
渡辺 あのときはロンドンのアトリエ兼ご自宅で。TAKUさんはきれい好きだから、部屋が汚れるのを嫌ったのかも。
TAKU ん〜、そもそも俺はできれば人の髪に触りたくないし。
渡辺 またそんなこと言って(笑)。あ、皆さん大丈夫です。こう見えてすごくまじめな方なんで(笑)。当時はめちゃめちゃおっかない人だったけど……。
TAKU なら頼まなきゃいいだろ(笑)。
渡辺 今はTAKUさんのお店、「カッターズ」があるから時間さえ合えばいつでも切ってもらえる。仕事の話もできる。
TAKU いつもすぐ脱線するけどね。
渡辺 ところで、なぜ自分のお店を出そうと思ったんですか? ショーや広告、メディアの仕事だけでもお忙しいのに。
TAKU やっぱり、ホームグラウンドを持ちたかった。ここなら、髪の毛で床が汚れても気にならないし。
渡辺 店舗はすべてご自身でデザインされたんですよね。すっきりした内装や収納、無駄のない動線など、お客さんの目に入るすべてにTAKUさんの美意識が行き届いているような気がします。
TAKU カスタマーをいかに満足させられるかだけを突き詰めた。カスタマーは十人十色。ヘアは皆の個性に寄り添って作るものだから、お客さんありきだよ。だから俺はヘアデザイナーであり、アーティストとは呼ばれたくないんだ。
渡辺 僕が髪を切ってもらっていつも思うのが、その瞬間だけじゃなく長く感動が残ること。デザイン後の鏡を見た瞬間には驚きがあるし、そのあと髪が伸びていっても自然と整っているというか。
TAKU そう? 適当だよ(笑)。
渡辺 自分じゃない自分が毎回発見できる。本当に特別な場所です。
TAKU 個人的には、ここは気の利いた寿司屋さんのようなものでありたくて。カスタマーの好みを、その人の性格や気分なんかも汲み取りながら、聞き入れて自分なりのスタイルを提案しているので、ぜひそれを楽しんでもらえたら。
渡辺 大将は少し頑固で怖いけど(笑)。
TAKU そうかもな(笑)。
——そこで技術以外に味わえるもの。それは一流独特の緊張感のある空気と、それと相反するかのような温かみだ。若木信吾=写真 増山直樹=文