OCEANS

SHARE

パワーもサイズも、等身大で楽しめる

とはいえ初代ゴルフの「GTI」に最初に搭載された1.6Lエンジンの最高出力は110ps。例えば今ではトヨタ「ヤリス(1.5L)」で120ps。ゴルフⅡの「GTI」も最初は1.8Lで105ps、1987年から「GTI 16v」となり、ようやく125psという数値だ。
けれども、これで実は十分楽しいのだ。数値的に速いだけが車の楽しさではない。だいたい、例えば7代目「ゴルフGTI TCR」(290ps)にもなると、もはや公道でそのポテンシャルを引き出すなんてことは、ほとんどの人は難しい。
確かに、今まで見たことのない領域を覗いてみたいという欲望は、今も人々を魅了する。スーパーカーはその最たるものだろう。
一方で、パワーが足りない分は自分の腕で引き出す。そんな楽しみがこの時代の車にはあって、それをきちんと引き出せたのが初代ゴルフや2代目ゴルフⅡの「GTI」なのだと思う。
トランスミッションは3速ATまたは5速MT。グレードによっては右ハンドルも選べた。
そのためには素の状態、つまり「GTI」ではないベーシックなモデルの性能の高さが重要になる。ドイツには初代「ゴルフ」の生まれる前から速度制限なしのアウトバーンがあるので、基本的な走行性能が高くなければ人々に(怖くて?)選ばれないのだ。
歴代「ゴルフ」はその性能、クオリティの高さゆえ、常に世界中の自動車メーカーにベンチマークとされてきた。
密かにゴルフを解体し、その構造を研究した自動車メーカーも少なくない。また口うるさい自動車評論家たちも、特に初代「ゴルフ」や2代目「ゴルフⅡ」については概ね甘口になる。
街乗りとしては必要十分なラゲッジルーム。
パワー同様、大きさも“ちょうどいい”。2代目「ゴルフⅡ」のサイズは全長3985×全幅1680×全高1430mm。現行型のトヨタ「ヤリス」とほぼ同サイズだ。このぐらいが街にはちょうどいい。例え左ハンドルでも運転席から手を伸ばしたら、高速道路の料金所のおじさんからお釣りが受け取れるようなサイズ感。
加えてデザインも端正。今のように板金技術が進んでないこともあり、シンプルな形状しかできなかったというのもあるだろうけど、おかげでスッキリ、サッパリしたデザインは今見ても古びない。初代「ゴルフ」はカーデザイン界の巨匠、ジウジアーロが手掛けたが、2代目「ゴルフⅡ」は社内デザイン。けれどほんのりとジウジアーロ味が残っている。
初代「ゴルフ」を選ぶのもいいが、1974年に登場してからもう40年以上が経つ。今から乗るなら2代目「ゴルフⅡ」がオススメだ。
ちなみに1983年にデビューした際のキャッチコピーは「ゴルフからゴルフへ」。つまり旧来のゴルフから、そのアップデート版に乗り換えませんか、という誘い文句だ。
最低地上高を高くして4WDシステムを搭載した「ゴルフカントリー」というモデルもあった。日本にもわずかながら輸入され、今でも人気のモデルだ。
実際、初代が登場した3年後の1977年から約6年間かけて初代のネガを潰し、特徴をより伸ばそうと煮詰めて2代目は開発された。
新機能とか新開発とかを謳わずとも大ヒットした2代目。熟成の味を、当時の自動車メーカー垂涎の味を、楽しめるうちに味わっておきたい。
「中古以上・旧車未満な車図鑑」とは……
“今”を手軽に楽しむのが中古。“昔”を慈しむのが旧車だとしたら、これらの車はちょうどその間。好景気に沸き、グローバル化もまだ先の1980〜’90年代、自動車メーカーは今よりもそれぞれの信念に邁進していた。その頃に作られた車は、今でも立派に使えて、しかも慈しみを覚える名車が数多くあるのだ。上に戻る
籠島康弘=文
※中古車平均価格は編集部調べ。


SHARE

次の記事を読み込んでいます。