民法が120年ぶりの大改正を迎えた。遠い存在に感じる法改正だが、僕らの暮らしに与える影響は大きく、知っておかないと困ることも多いのをご存じだろうか?
そこで、具体的なシチュエーションを例に挙げ、『スッキリ』『行列のできる法律相談所』などでおなじみの菊地幸夫弁護士の解説で民法改正のポイントを紹介。
今回は「介護していたのに遺産がもらえない」。近い将来、こんなまさかの事態に直面するかも?
【教えてくれた人】菊地幸夫 弁護士●中央大学法学部卒業。番町法律事務所。元司法研修所刑事弁護教官。社会福祉法人練馬区社会福祉事業団理事も務める。また、日本テレビ『行列のできる法律相談所』及び『スッキリ』をはじめ、数本の番組にレギュラーとして出演。
HP:
http://bancho-lawoffice.com/
【Case Study】義母に付きっきりで介護をしていた妻は、遺産がもらえるのか?
Aさんの10歳上の姉は子供はおらず、同居する義理の母の介護を5年ほど行っていた。すでに自分の夫は他界しているのに、甲斐甲斐しく義母の世話をする姉に感心し、Aさんはいずれ姉にも義母の遺産を分けてほしいと願っていた。ところが、実際に義母が亡くなると姉には相続の権利がなく、遺産はふたりの義理の兄に分配されることが判明。Aさん自身も妻の両親と同居する計画があり、けっして他人事ではない。そこでAさんは姉とともに弁護士に相談に行くのだが……。はたして姉に遺産は分配されるのか?
──介護とか遺産って、40歳前後の僕らにはまだピンとこない問題だけど、10年後には身近なテーマになりそう。そう考えるとAさんのお姉さんのケースって心配になります。菊地先生、お姉さんはなぜ遺産をもらえないんですか?菊地:お姉さんは相続人ではないからです。このケースでは、義父は先に亡くなり、お姉さんの夫も亡くなっている。そうなると、義母の遺産を相続するのはふたりの義兄だけということになります。
残念ながら、義母の遺言がない限り、従来の民法ではお姉さんに義母の遺産を受け取る権利はありませんでした。
──ひどすぎます! 5年間も介護したのに……。でも「従来の」ということは、2020年の法改正によって介護していた義理の娘も遺産をもらえるようになったということですよね。菊地:正確に言えば
「特別寄与分」として金銭の請求ができるようになりました。まずは、これまでの状況を場合分けして、簡単に説明していきましょう。
もし、お姉さんの夫が存命だった場合、相続人は夫とふたりの兄になり、それぞれ3分の1ずつとなります。でも、お姉さん夫婦が介護していたならば、義母に貢献をしたということで
「寄与分」という貢献ポイントがつき、例えばお姉さんの夫が40%、兄30%、兄30%というようにより多く相続できました。
問題は、夫が先に亡くなっている場合です。貢献ポイントは夫の相続分にプラスされるわけですが、
夫が亡くなると元々のベースがなくなるため、妻は何も受け取れなくないのです。遺産はふたりの義兄が2分の1ずつもっていってしまう。すると、ずっと介護してきたお姉さんの苦労がまったく報われなくなるので、それはひどいということで法律が変わったのです。
──なるほど。改正ポイントは理不尽さの解消なんですね! 「特別寄与分」は遺産の何%ぐらいになるんですか?菊地:法改正されても相続人になるわけではないため、「義母の不動産をこれだけください」とは言えません。先ほどお話したように金銭なので、
ふたりの義兄に対し「私は義母にこれだけ貢献したのでお金をください」と請求することができます。
介護が5年間として、たとえばひとつの考え方としてその時間の労働を時給800円と仮定しましょう。時給1000円と言いたいところですが、義母ですからね。ほぼ24時間介護していたでしょうけど、睡眠時間を引いて1日15時間とすると1日1万2000円。5年間で約2200万円となります。それをふたりの義兄に50%ずつ請求するわけです。
──お姉さんの言い値がそのまま通るものなんですか。5年間で約2200万円はわりと妥当ではありますけど。菊地:お姉さんも親族のひとりなので、約2200万円×0.7といった七掛け程度かもしれません。それでも1500万円。ふたりの兄に750万円ずつ請求する形になるでしょう。
【改正ポイント①】
・「寄与分」から「特別寄与分」に変更
・夫(亡くなった人の子供)が亡くなっている場合でも、妻が金銭の請求ができる
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