民法が120年ぶりの大改正を迎えた。遠い存在に感じる法改正だが、僕らの暮らしに与える影響は大きく、知っておかないと困ることも多いのをご存じだろうか?
そこで、具体的なシチュエーションを例に挙げ、『スッキリ』『行列のできる法律相談所』などでおなじみの菊地幸夫弁護士の解説で民法改正のポイントを紹介。
今回は「敷金が多く取られていたら……」。まさかの事態に陥ったとき、法改正の内容を知らないと損してしまうかも?
【教えてくれた人】菊地幸夫 弁護士●中央大学法学部卒業。番町法律事務所。元司法研修所刑事弁護教官。社会福祉法人練馬区社会福祉事業団理事も務める。また、日本テレビ『行列のできる法律相談所』及び『スッキリ』をはじめ、数本の番組にレギュラーとして出演。
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http://bancho-lawoffice.com/ 【Case Study】「床のへこみ」「鍵の取り換え」が敷金から減額……原状回復義務はどこまである?
Aさんは最近、1年間住んでいたマンションから引っ越した。しかし、マンションの大家さんは「家具下の床のへこみ」は経年劣化に当たらないと言い、「鍵の取り換え」の費用負担もAさんに要求。その分のお金が返還されるはずだった敷金から引かれ、減額されてしまった。納得のいかないAさんは大家さんと話し合いを続けるが……。借り主の原状回復義務の範囲はどの辺りにあるのか?
──ちょうど僕の友達も敷金で大家さんと揉めているんですよ! 退去時に敷金が大幅に減額されたり返ってこなかったりという話をよく聞きますけど、菊地先生、なんで敷金ってトラブルになりがちなんですか?菊地:敷金についての判例は出ていたんですが、
従来の民法には敷金の基準を定めた法律がありませんでした。原状回復義務の範囲にもガイドラインがあったのですが、それを守らない大家さんが少なくなかったんですね。そのため、トラブルになるケースが出てきたものと考えられます。
──2年も住んでいれば部屋のあちこちが経年劣化しますよね。この経年劣化の判断も大家さんのさじ加減ひとつで決まり、原状回復費用が多く取られることがありえたということ? 泣き寝入りするしかないじゃないですか!菊地:残念ながら、従来は多くの借り主がそうでした。たとえ敷金返還の裁判を起こしても、返ってくる見込みのあるお金が家賃1カ月分程度と少額なので、裁判費用を差し引くと赤字になってしまう。大家さん側も「どうぞ裁判を起こしてください」というスタンスでした。
もっとも、私は敷金について話し合うために依頼主と大家さんのところへ行ったことがあるのですが、すると大家さんが「本当に弁護士が来た」と驚き、少々嫌そうな顔をしつつその場で敷金を払ってくれたことがあります。
──菊地先生スゴい! じゃあ今回の法改正で敷金控除や原状回復義務のルールが明確になったんですね。菊地:通常の使用による損耗や経年劣化は賃借人の責任ではないと明記されました。わかりやすくするために下の「改正ポイント①」で
原状回復義務の範囲を紹介します。ご覧のように例が8項目あるのですが、このうちカッコ内に「通常の使用方法」とあるものは大家さん負担となります。Aさんがトラブルになっている「家具下の床のへこみ」「鍵の取り換え」はいずれも通常の使用方法にあたるので、大家さん負担です。
【改正ポイント①原状回復義務の範囲】
(通常の使用方法)
1.家具下の床の凹み
2.冷蔵庫後ろ壁面の黒ずみ
3.ポスター、カレンダーの画鋲跡
4.エアコン取付のビス跡
(通常使用による汚損を超える)
5.タバコのヤニによる汚れ
(通常使用を超える)
6.既存の照明用コンセント以外に賃借人が天井に取り付けた照明器具の跡
(賃貸人負担)
7.鍵の取り換え
(賃借人の善管注意義務違反)
8.引っ越し作業の傷
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