渋谷区道玄坂。クラブやライブハウスが点在する地に、同じく音楽に紐づく小さなバー「ビート カフェ」がある。 その“フロントマン”を、ベドウィン & ザ ハートブレイカーズのディレクター・渡辺真史さんが訪ねた。 KATOMAN(以下、K) 何飲む? 渡辺 じゃあ、“KATOMANビール”を。この店は本当に人との距離の取り方が絶妙。ソーシャルディスタンスだけじゃなく、人との間合いも含めて。 K そこらへんは直感で(笑)。 渡辺 だから、いい意味で適当だと感じるのかも(笑)。仲間と来ても、ひとりで来てもいつも心地良く滞在できる。そうやってできたつながりがあるから、この特製ビールも実現したわけでしょ。 K 50歳になった記念にクラフトビールを造りたくて。近所のビアバー「ミッケラー・トウキョウ」にアルコール度数を抑えたサワービールを造れないかと相談したら、長野のブルワリー「AJB」が梅を使って造れるってことになってさ。ラベルのイラストはUSバンド「パーケイ・コーツ」のギター、アンドリューが描き下ろしてくれたんだ。 渡辺 そのエピソードだけでも伝わってくるけど、ここには世界中の、それも人気のバンドマンが楽しみに来る。
K レコードレーベルのディストリビューターやオーナーもやって長く音楽に携わってきたなかで、世間が知らないような頃からヤツらの音楽を熱心に紹介してきたからね。ここでは自分が好きな音楽を流して、みんなが楽しめるきっかけをちりばめてるというか。 渡辺 確かに、いつもみんな楽しそう。ここには、いわゆる“音楽好き”が陥りがちな排他的な雰囲気も全然ないし。 K 入り口を広く開けていたいし、店ではすべてがイコールになるよう気を付けているよ。どんな経歴や職業の方が来ても基本は一緒。酒と音楽、コミュニケーションを楽しむ場所。だからみんなも、変にカッコつけないのかもね。 渡辺 影響を受けたバーはある? K NYの「マックス・フィッシュ」やLAの「チャ・チャ・ラウンジ」「ショート・ストップ」は大好きなバー。ミュージシャンの友人が働いてたり、有名な連中がごく普通にフラッと飲みに来てたりして、本当にいい感じの店だよ。 渡辺 最初に僕がKATOMANに会ったのは14年前。海外の友人に「最高のバーテンダーがいるヤバい店がある」と言われてさ。東京は本来僕の地元であるはずなのに、友人から店のことを、KATOMANのことを紹介してもらったときは、本当に不思議な感覚だった。 K そういう物理的な距離とは関係のないつながりが、今後ますます大事になってくるかもしれないね。 ——東京・渋谷の小さなバー。その濃密な空間は、ひとりの男を介して世界中の音楽好きとリンクしている。