3作に通底するのは、人間が持つ汚く醜い部分ときれいで尊い部分がむき出しになっており、それらがこれでもかというくらい神々しく表現されているところ。河村さんのコラージュ作品に見られる蠱惑的な魅力とつながるものがあるが、今回のテーマであるルームウェアとはどんな関係があるのだろうか。
「どの作品のキャラクターも屋内外を問わず、服装をあまり変えないんです。『THIS IS ENGLAND』はポロシャツにサスペンダーという典型的なスキンズスタイルで、『ワイルド・アット・ハート』は主人公が常にヘビ柄のジャケットを着ている。
『スカーフェイス』では、ほとんどのシーンでシャツのボタンがはだけたセクシーな大人の着こなしが見られる。どれも男としていっさいぶれずに同じスタイルを貫いており、そういう部分にすごく憧れました」。
各作品のキャラクターと同様、河村さんも服装は常に同じであるという。外出する際もルームウェアも、常に黒い服を纏っているらしく、そこには理由がある。
「この仕事を始める20歳くらいのときに、生活したり表現したりするうえでいちばん難しいことを自らに課そうと決めたんです。というのも、当時は上京したばかりで知り合いもいなければ仕事もなく、逃げグセのある僕は何だかんだ理由をつけて実家に帰ってしまいそうでした。
だからそうならないように意志の表示として難しいことに挑戦しようと思い、考えているうちに『普通であること』がいちばんしんどいのではないかと気付きました。『普通』って一歩間違えたらダサくなったり、気取った感じになったりすると思うんです。
それでは何が普通か?と考えて出た答えが、何もいじらない黒い髪に黒い服。黒という色は普通だけど意志の強さを感じさせる色ですし、逃げずに頑張るという意味でも着ていました。髪型も服装もいつも同じならカッコつけたいと考えず、より創作に集中できますからね」。
河村康輔●1979年、広島県生まれ。企業広告やカルチャー誌のデザインを手掛けるほか、ファッションブランドとのコラボも多数展開。昨年11月に開業した渋谷PARCO建て替え工事の仮囲いを、大友克洋氏の代表作『AKIRA』を用い、大友氏とともに美術演出した。
オオサワ系=文