「子供のスポーツ新常識」とは……子供たちの脳に成熟した大人と同じ140億個の脳細胞がつくられる期間は、受精から生誕までの約10カ月と言われています。また、生誕後は神経回路やシナプスがものすごいスピードで構築され、3歳までに大人の80%、6歳までに90%、そして12歳で100%となり、最終的なシナプスの数は112兆個という途方もない数になるとのこと。つまり、子供たちの脳の情報処理機能や記憶容量は、大人と変わらないのです。
そして、脳からのさまざまな情報の伝達に寄与するのが「ホルモン」です。スポーツにおいては、スキルやパフォーマンスの良し悪しはもちろん、試合や練習を乗り切る上でのメンタルにも強く影響します。今回は子供たちの“心”にフォーカスしてみましょう。
ちょっと厳しい応援のほうがパフォーマンスは伸びる?
私たちの体が活動的になるためには、交感神経を活発に働かせる必要があります。これには副腎(腎臓の上に付いている臓器)から分泌される「ノルアドレナリン」というホルモンが関与します。このノルアドレナリンは、神経を興奮させる伝達物質であるとともに、全身を奮い立たせる覚醒物質でもあります。また、意欲・不安・恐怖と深い関係があり、刺激を受けことで放出されるため、別名「怒りのホルモン」とも呼ばれます。
例えば、スポーツ観戦に付きものの応援。これは、選手が少々刺激や怒りを感じるような声援が効果的と考えることができます。「いいぞ! 頑張れー!」よりも「何やってるんだ、もっとしっかり走れ!」といった厳しい応援のほうが、パフォーマンスは伸びるかもしれないということです。
ノルアドレナリンは軽いストレスによって分泌されます。大人の皆さんにも経験があると思いますが、例えば会議中にいきなり誰かが名指しで意見を求められているのを見ると、「次は自分が指されるのでは……」と少しハラハラするものです。この程度のストレスでも、ノルアドレナリンの分泌による作用で覚醒度と集中力が高まります。
子供たちのスポーツの練習や試合、あるいは発表会など、緊張を伴うような場面で他者(自分の親を含む)から受ける声援は、普段の状況にはないストレスを与えます。これが過度になると、ノルアドレナリンの分泌が過剰となり、ブレーキをかけないと不安やパニックなどをもたらすこともあります。やはり緊張は過度になると、一転してパフォーマンス低下の原因になってしまうわけです。
そこで、ノルアドレナリンの働きが過剰にならないようにするために「セロトニン」というホルモンが存在します。別名「幸せホルモン」と呼ばれ、ノルアドレナリンと並んで感情のコントロールや睡眠など人間の大切な機能に深く関係する神経伝達物質のひとつです。
脳は緊張やストレスを感じるとセロトニンを分泌してノルアドレナリンの働きを制御し、自律神経のバランスを整えようとします。疲労やストレスが溜まっているときに温泉に入ったり、リラックス効果のあるストレッチなどを行うことで「癒されるなあ」と感じるのは、セロトニンの分泌が増えることでノルアドレナリンの効力が減少するからです。しかし、ストレスや疲労が過度に蓄積してしまうと、セロトニンの分泌量自体が減少し、その作用が減弱してしまいます。
このようにセロトニンも心と体のバランスを調整する役割を持っているばかりか、スポーツにおいてはエネルギーの利用をコントロールする働きまで担っています。
2/2