ストレスをコントロールできない子供とどう向き合うべきか?
セロトニンが正常に分泌されている時は、ノルアドレナリンによる興奮を上手くコントロールできるので、普段の実力以上のパフォーマンスを発揮できたりします。どれだけ声援が多くても、緊張するどころか「俺はみんなに注目されている!」という“快感”を覚え、効率の良いエネルギー供給を継続させるように働くことで、体の活性化を適度に維持してくれるのです。
また、「みんなに見られている」という“快感”によって、脳からのセロトニンの分泌がさらに増加することもわかっています。ノルアドレナリンやセロトニンが正常に分泌されている状況のもとでは、子供たちは緊張を力に変えることができるわけです。
とはいえ、新型コロナウイルスの影響で一層先が見えにくくなっている今は、そうもいかないケースが起こるでしょう。不安や緊張、ストレスなどを持続的に感じていると、「ノルアドレナリン」や「セロトニン」といったホルモンのバランスが崩れてきます。
健全な状況ではノルアドレナリンがパフォーマンスを上げることも考えられますが、試合がなくて目標を見失ったり、トレーニングが不足している不安を抱えているような状況下では、「頑張れ」「しっかりやらないと」などといった単純な声かけは、過度な緊張やストレスとして蓄積され、セロトニンの分泌の減少につながります。これでは感情やエネルギーのコントロールがうまくいかない悪循環に陥ってしまうことも考えられるでしょう。
下図をご覧ください。ノルアドレナリンもセロトニンも、分泌が不足してその必要量が低下すると、スポーツ等の身体活動の際、精神的にマイナス方向へ働くことが分かってきています。多少の緊張感を持たせてあげるような声かけがパフォーマンス向上に効果があるという事実はありますが、それがストレスとなるまで繰り返すことは、もはや応援とは呼べません。
ただでさえストレスを感じやすい今日この頃、スポーツに取り組む子供たちへの応援は、ケースバイケースで使い分ける意識が大切なのだと思います。「最近、集中力がない」「急にやる気や興味を失った」「不安そうにしている」など、さまざまなサインを見逃さないようにしてあげてください。冒頭で述べたとおり、子供たちの脳は既に大人と同じ感情を覚えるようにできています。
しかし、心身をうまくコントロールできる“成長度”には達していません。心と体のバランスをとるには、まさに大人からの“声援”によって、コントロールしてあげなければならない状況があるのです。
「子供のスポーツ新常識」子供の体力低下が嘆かれる一方で、若き天才アスリートも多く誕生している昨今。子供とスポーツの関係性は気になるトピックだ。そこで、ジュニア世代の指導者を育成する活動を行っている、桐蔭横浜大学教授の桜井智野風先生に、子供の才能や夢を賢くサポートしていくための “新常識”を紹介してもらう。
上に戻る 連載「子供のスポーツ新常識」一覧へ桜井智野風=文 桐蔭横浜大学 教授。同大大学院スポーツ科学研究科長。運動生理学 博士。骨格筋をターゲットとしたスポーツ科学・生理学的な研究を専門とする。公益財団法人 日本陸上競技連盟 指導者育成委員会コミッティーディレクター。スポーツの強化策としては、「ジュニア世代と接する理解ある指導者や親を育てることが一番重要である」という考えのもと、ジュニア対象の指導者育成のために全国を飛び回っている。 |